2009年11月22日

あらためて、落語はいいです。上方も江戸も、それぞれにいい味です。落語家の容姿や、あるいは手拭いと扇子だけの巧みな身振りも素晴らしいですが・・。つづく

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愛媛国縁起


おもしろきことも無き世をおもしろく・・


『愛媛国縁起』
【乃麻埜(のおの) 『媛国攻陣始末記』を物語りて・・・】

 一方、神武(かみたけ)は勝利の美酒を味わいつつ、本陣近くの山に逃げ込んだという敵の事など気にもしていない。
 まったく別の事を考えていた。恐るべき思案であった。
彼は今、美酒に酔いつつ待っている。邪馬台国の都を陥落させる時を、である。
 神武にとって今日の一戦は、その前哨戦に過ぎず、しかも想いのほか楽に、かつ早く決着してしまったらしい。そのため余った時を大野営で潰し、兵の慰労も兼ねて祝宴を張った。

 二年ばかり前、彼が仕掛けた戦は邪馬台国の軍容を知るための、いわば模擬戦だった事は、すでに述べた通りである。その結果、想うていたよりも強い、と判断したらしい。
 その後の二年を自軍の充実のみに費やしたのではなかった。
出雲から海に漕ぎ出し、邪馬台国の東方に在る津称奈(つとな)国へと使者を送っていたのである。目的は〈戦時同盟〉であった。

「貴国は老舗にて強大なれば新興の邪馬台国など、あるいは敵とも思うておらぬやも知れませぬ。が、ちと面白き事のない存在ではありませぬか」
 と慇懃(いんぎん)に切り出し・・
「弊国としては今より以上に東征するつもりはござりませぬが、ただ一つの望みと申せば貴国との国交にて、貴国の伝統ある文物を学ばせていただきたい、その一心であります」
 とへりくだり、続けて
「されば貴国との間に壁ともなる邪馬台国、弊国の全力を傾け滅しとうござります。滅した後には畿内全土を貴国への献上物として差し上げたい、と決めて一度は挑みましたれど敵は存外に強く、恥ずかしながら敗北を喫しましてござります。今は再度の戦を仕掛けるべく軍備を整えております。きたる決戦の折ふし【ちょうどその時】には、貴国からも兵を出していただき、敵の東西より挟撃すべく御力添えのほど願い奉りまする」
 と云った。
なかなか巧緻なる口上なら、いっそ、見事なる外交、と誉めていい。二度ばかりは、すげなく断られ、それでも諦めず、やっと三度めに同盟を成している。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 09:56 | Comment(0) | 邪馬台国物語

2009年11月21日

志ん生師匠の芸は、それこそ神業にも近いですね。僕にとって・・、師匠の『風呂敷』なんかは、眼をつぶって聴いていても、思わず噴き出してしまう絶妙です。

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愛媛国縁起


おもしろきことも無き世をおもしろく・・


『愛媛国縁起』
【乃麻埜(のおの) 『媛国攻陣始末記』を物語りて・・・】

 この瞬間の覇津華雅(はつかが)の心情、〈都祢那賀に対する畏敬〉と〈命令に敏感な軍人の性〉の、どちらに重きが傾いたものか。あるいは都祢那賀と神子のやり取りの内に、ただ理論理性に鑑みて裁断したものか、よくはわからない。
 いずれにせよ信心に厚い覇津華雅が、軍の吉例でもある神子(かみこ)を斬るなどは、よほどの覚悟であったに違いない、と察するばかりである。

「はっ」
 些かの躊躇もなく覇津華雅の手が動き、脚が動いて、神子の喘ぎが止むと同時に、辺りに、ばっ、と血が噴き飛んだ時には神子の頭が二つに割れて、手足がわずかに痙攣している。それも、すぐに止まった。さても、人の心根などは妙なものにて計り知れない。
 周囲の者達の表情が恐怖にこわばり、されど萎えた気根には弾みを取り戻しつつある・・。
「見たかっ」
 都祢那賀(つねなが)の叫びは、いっそう甲高い。
「ははあっ」
 皆、姿勢を正して平伏した。
「聞いたなっ」
「ははあっ」
「吾が軍に毒した悪霊は滅したっ、今宵こそが勝機だっ」
「恐れながら」
 と、顔を上げた兵士の名までは記されていないが、いずれ古参の剛の者ではあったろう。
「勝機とは申さるるが、この人数では心もとのうござりますまいか」
「狙いは、神武(かみたけ)の首一つぞ。されば、多すぎるくらいじゃ」
 これは、覇津華雅の言である。
どうやら、ようよう自問の自答が出たらしい。武略当代比類無し、と云われる自身が蘇生っていた。

 陽が落ち、平野から吹き上げてくる夜風には酒の臭いが混じり、ざわめきに手拍子や歓声、端唄らしきものまで混じっているのは、戦勝祝いの宴が催されているらしい。

(ええわい、もっと呑め呑め。戦の疲労と相まって、いっそ酔いつぶれてしまえや。)

山頂の闇の中で覇津華雅は、鳴るようにさんざめく星々にも祈るような心持ちであった。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 07:58 | Comment(0) | 邪馬台国物語

2009年11月20日

昨日から、ちょっと落語を見なおしてます。三代目、古今亭志ん朝さん、まさに名人だと思います。

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愛媛国縁起


おもしろきことも無き世をおもしろく・・


『愛媛国縁起』
【乃麻埜(のおの) 『媛国攻陣始末記』を物語りて・・・】

 その罵声の主は、へたり込む兵士達に隠れるようにして、小声で云ったつもりが思わぬ大声になってしまった、かの神子(かみこ)であった。
「きゃ」
 また何を思ったか、都祢那賀(つねなが)は
「やあ神子様、卦を聞いたのは確か今朝方、それが今では懐かしゅう思えまする」
 などと云いながら、とうの神子に近づいてゆく。
神子は尻もちをついたまま
「若様の狂態にて吾の卦の吉兆、消え失せたのですぞえ」
 と声を励ましたのは、当時の神子の権威によるものであったろう。

「されど」
 都祢那賀は神子の真正面に立ち
「俺の卦の方が当たったぞ」
 と笑った。
「何の。吾を脚蹴にしたがゆえの惨敗戦、どうなさるおつもりじゃ」
「ほう、これは驚く」
 都祢那賀は目を見開いて、本当に驚いたような顔をして見せ、神子が
「ふん。今さら遅いわ」
 と得意げな口調で、仕草だけは、さも苦々しげに地に向かいて唾を吐いたのが油断。都祢那賀は
「されば、この危機を招来させたは汝(うぬ)だな」
 と云いつつ、素早くかたわらの兵士の腰から剣を抜き取り、上段に振りかぶるや、真っ向から斬り下げた。
 ぼくっ、と鈍い音がし、同時に
「ぎゃっ」
 と神子がうめいた。

 当時の剣は切れ味が悪い、というより、よほど力があり上手な者でなければ、ほとんど斬れない。つまりは〈斬る〉のではなく〈殴る〉と云う方が近いものであった。
 それでも、子供の力とはいえ分厚い鉄板でしたたか殴られれば、骨が砕けたのだった。それも頭蓋を狙い損ねて左の肩骨を砕いた。

 神子は地を這いずるようにして逃げながら・・
「神子を殺せば末代まで祟るぞよ」
 と、喚いた。
「よきかな神子、上等ぞ。俺の名は都祢那賀だ。この顔も、よう覚えてから逝け」
 甲高くきっぱりと云いきり、都祢那賀はもう一度殴りつけた。
やはり斬れない。
「爺様っ、斬れっ」
 そう云って手にした剣を投げ捨てたのは、痺れたせいでもあったろう。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 07:15 | Comment(0) | 邪馬台国物語

2009年11月19日

うーん、体調わるいなあ・・。

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愛媛国縁起


おもしろきことも無き世をおもしろく・・


『愛媛国縁起』
【乃麻埜(のおの) 『媛国攻陣始末記』を物語りて・・・】

そんな苦悩や状況を知ってか知らずか、都祢那賀(つねなが)は
「神武は阿呆だ」
 と、はしゃぐ事をやめない。
いや、これは、どうやら自身に云い聞かせているらしい。
「爺様、敵が飯を炊き始めましたぞ」
 などと嬉々として云う都祢那賀は、どこまで無邪気なのだろう・・。
「あぁ、まこと。さぞや旨い飯でしょうな」
 戦勝祝いの夕餉じゃわい・・。
「神武は最後尾におる。やっぱり阿呆だ、あの陣立では群主は狩れぬ」
「・・・えっ」
「その群主とは」
 都祢那賀は言の葉を区切り、ゆっくりと味方を振り返った。
「吾らぞ」
 真っ赤な木漏れ日を浴びて微笑すら浮かべたあたり、子供とはいえ、堂々たる。

「若様、恐れながら今一度、今一度言問う。何をもって本陣を見極めたもうたか」
「炊飯の煙が最初に昇った。それが合図とて、あちこちに煙がたなびき始めましたぞ」
「あぁ」
 覇津華雅(はつかが)は、まさに目の覚める思いであったらしい。
冷えていた血が再び沸き、 己の顔面が熱くほてり始めたのを感じているのだった。

(若様の軍才、まこと天賦かも知れぬ。)

 戦場にての好機と危機は、同時でもあったろう。
覇津華雅の希望と絶望も、同じく忙しい。
「俺が神武ならば陽の落ちきる前に葛城山頂へ登る。一番乗だ。ゆえに神武は阿呆者よ」
 都祢那賀がそこまで云った時、である。
「阿呆はどっちぞや」
 と云う声が聞こえた。


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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 09:52 | Comment(0) | 邪馬台国物語

2009年11月18日

落語、あるいは漫才にしろ、いわゆる話芸ってのは、いいもんですね。名人たちのそれらは、まったく音声だけで楽しめます。映像に甘えてると、芸は堕ちてしまうように想います。たとえば近年のように・・。

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愛媛国縁起


おもしろきことも無き世をおもしろく・・


『愛媛国縁起』
【乃麻埜(のおの) 『媛国攻陣始末記』を物語りて・・・】

 さて、濡れそぼった稲穂原を逃げまどう邪馬台国軍を包囲せん滅し、余裕で掃討戦まで終えた神武(かみたけ)が、再び兵をまとめて静まったのは日暮れ間近である。
 都祢那賀(つねなが)の云ったとおり雨はやみ、空は大地を染めた邪馬台国軍の血色さながらの夕焼け、まさに卦としては大凶であろう。
「神武は、阿呆(あほう)だな」
 敵兵に埋め尽くされたかのような、しかも不気味な静寂が漂う平野を見下ろした都祢那賀は、なぜか上機嫌であったらしい。
 が、すでに志気の萎え始めている兵士達は、それに応える気力も失せ果てて、ただ黙々と口を動かしている。火は使えず、夕餉がわりにとて硬くなった餅を咀嚼(そしゃく)しているのだった。

〈雉の巣〉が上首尾で・・、百草山に分け入っていた敵兵どもがあきらめて戻ったまではいい。
 しかし、生き残った味方、ざっと数えて八百余。眼下の敵は、この百草連山のすそ野より葛城山のふもと辺りまで埋め尽くし、しかも圧倒的な勝ち戦、志気は高まるばかりであろう。
明朝には葛城山を越え、一気に明日香野まで攻め込むに違いなかった。

 その都には水上宮の警護兵が多くても百名ばかり、邪馬台国にはもはや軍がない。
(さて、どうするかい、覇津華雅(はつかが)様よう)

覇津華雅は、山に逃げ込む前からずっと自問し続けており、いまだ自答できずにいた。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 07:47 | Comment(0) | 邪馬台国物語

2009年11月17日

若い頃・・、凝るっていうほどじゃないけど、落語を好んでた時期があります。なかでも桂枝雀さんが好きでした。ことに、枝雀さんが、酔った人を演じる時には、もうみとれて聴き惚れましたねえ・・。

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愛媛国縁起


おもしろきことも無き世をおもしろく・・


『愛媛国縁起』
【乃麻埜(のおの) 『媛国攻陣始末記』を物語りて・・・】

「ああっ。わ・・若様」
「許さぬ」
 鋭く叫んだ都祢那賀(つねなが)は腕で横殴りに涙をぬぐい、それでもぬぐい足りず、馬を洗う湧水まで駆け寄って顔を洗った。
「吾の浅はかさっ、なにとぞっ、お許しあれっ」
 さすがに覇津華雅(はつかが)は弱り果て、積もった枯葉の上に平伏して詫びている。

 何度も水をすくって顔を洗い終えた都祢那賀は、覇津華雅の前に腰をおろし、もう泣かなかった、という。
 すでに気分まで変わったのか、甲高い声で云う事には
「爺様の馬飾りも頂戴いたします」
「えっ」
 困惑しきりの覇津華雅を見やり、都祢那賀は
「きゃっ」
 と奇声もて破顔った。
覇津華雅は胸中・・・

(やはり気違いか)

と嘆息したが、すぐに・・

(いやいや、初陣にしては惨すぎたのじゃ。この戦況では古参兵とて、気もおかしゅうなるわいなあ)

と思い直し
「何故の祭り支度なりや」
 と、つとめて微笑した。
しかし、都祢那賀
「必勝祈願に決まっておりましょう」
 破顔ったままで叫び、ぱん、と手までうった時には、心の張りが淡雪のごとくに消えてゆき、あとは、くたくたと全身の力が抜けてゆくのを感じた覇津華雅であった、とある。
「あぁ、それは殊勝なお心がけじゃ」
 もう、泣きたいような心持ちであったらしい。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 06:29 | Comment(0) | 邪馬台国物語

2009年11月16日

午前四時・・、地獄の釜のフタがしまり、極楽の門が開く時間だ・・、ってなことを、どこかのお坊さんが云ってたような記憶があります。ああ、有り難い。合掌

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愛媛国縁起


おもしろきことも無き世をおもしろく・・


『愛媛国縁起』
【乃麻埜(のおの) 『媛国攻陣始末記』を物語りて・・・】

「まだ、やっておる」
 その甲高い声で云いつつ、都祢那賀(つねなが)は振り向きもしない。
「その戦の真っ最中に」
 甲冑を脱いでしまって、いったい何をしておらるるのか・・。
「祭礼支度だ。殊里(しゅり)もやれ」
「・・若様」
 お気は確かかや・・。
「殊里、祭りぞ。たんと着飾らねばならぬ。泥まみれでは神輿に映えぬわ、急げ」

(ついに狂うたか)

「わっ・・若様」
 覇津華雅(はつかが)はうめき、その小さな肩に触れようとした。 都祢那賀は、それを嫌って数歩前に踏み出し、まだ下方を見やっている。
「松明は二本のみでよい。細ぶりに形を整え、握り柄は腕ほどに長くせよ」
「若様、お気を確かに。唖毘卑鈷(あびひこ)様も、長髄彦(ながすねびこ)様も・・、討死なされたよしにて・・」
「いいざまだな」
「えっ」
「異母兄(あに)様達には、よう泣かされたわ」
「なっ、何を申さるる」
「いっそ狂熊(たぶれぐま)どもには、似つかわしい最期ぞ」
「やはり、幼少の頃を怨みに思うておらるるのかや」

(わしの養育・・、ついに誤ったか。)

さすがに覇津華雅も、怒気を含んで都祢那賀の右肩を掴んだ。
 都祢那賀は、その手を振り払うようにして素早く身をひるがえし、覇津華雅を見上げた。涙ばかりか、ぐずぐず、と鼻水まで垂らした・・、それは情けないばかりの泣き顔であった。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 04:04 | Comment(0) | 邪馬台国物語

2009年11月15日

近ごろは運動もしないで食べ過ぎていたため、つとめて小食をこころみようと思っています。まだ昨日はじめたばかりですが、袈裟は、久々の爽快感のうちに目覚めました。

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愛媛国縁起


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『愛媛国縁起』
【乃麻埜(のおの) 『媛国攻陣始末記』を物語りて・・・】

 およそ千にも満たぬであろう味方の最後尾に少し離れて、覇津華雅(はつかが)はいた。
「親父殿、よくぞ御無事で」
「おう殊里(しゅり)、うぬもじゃ。して、肝心かなめの若様は」
「御無事にござりまする」
「どこにおわしますのじゃい」
「雉(きじ)の巣、などと申されて、かの端頂へ」
「・・・なるほど、雉の巣か」

 狩猟駆けにて馬を進めながら殊里は、その意味を問うた。
「知らぬうぬではあるまい。巣を守る雉は危うきを察知すると、決してその場からは飛び立たぬじゃろう。雑草木をくぐりて地を歩き、巣からよほど離れて飛び立つものじゃ」
「・・あっ」
「分かったな」
「今さらながら、若様には驚くばかりです」
「まことにのう」

 そんな二人が頂に到着して見たものは、これまた何とも解し難い光景である。都祢那賀(つねなが)は軍装をといており、近衛兵(このえへい)達が手分けして懸命に、都祢那賀の馬や甲冑に付着した泥をぬぐい取っているのだった。
 とうの都祢那賀は背を向けて、雑木の間から平野を見下ろしている。馬を降りた覇津華雅は背後に歩み寄り・・
「若様」
 と声をかけた。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 05:41 | Comment(0) | 邪馬台国物語

2009年11月14日

豪雨・・、とまではいきませんでしたが、僕の寝泊まりしている地方は、よく降りました。皆さんのところは、どうでしたか?

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愛媛国縁起


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『愛媛国縁起』
【乃麻埜(のおの) 『媛国攻陣始末記』を物語りて・・・】

「若様、かの小山に登りませ」
 と覇津華雅(はつかが)が指し示したのは、在所の民人が〈百草山=ももくさやま〉と 名付けて親しむ、巨松をはじめ雑木や草木が生い茂る・・・、平野には小高い連山であった。
 それにしても、逃げなされ、とは云わぬあたりが、戦場における駆け引きの妙であろうか。
この頃には都祢那賀(つねなが)も、徐々に戦場の異様な空気に慣れてきて、狩猟(かりくら)の要領を思い出していたのであろう、すみやかに馬頭を百草山に向け駆け登ってゆく。覇津華雅が殿軍(しんがり)をこなして敵を近づけず、都祢那賀以下の一群が山の雑木森林に消えていった。

 小山の頂に登りつめた都祢那賀は馬を止めず、反対側の斜面を半ばまで下り、そこで方向を変えて横切り始めた。行く手は確かに葛城山に近づく方角であったが、かなり遠い。百草連山も、そこまでは連なっていないのである。しかも、戦場と化した平野中に広がる阿鼻叫喚も、まだまだ止みそうにはなかった頃であった。

「若様、このまま逃げるおつもりか」
 と、背後から問うたのは殊里(しゅり)である。
「雉(きじ)の巣だ」
「えっ」
「あの端頂に登る」
「はあ」
「殊里、うぬは戻って爺様を案内せい」
「恐れながら・・」
「爺様には、雉の巣と云えばわかるわ」
 都祢那賀は振り返りもせず、しかし、ついに怒声を発した。
「はっ、ははあっ」
 不如意のまま急いで馬を戻しながら殊里は、昨夜の都での馬揃えを想い出している。

(二千の軍勢が、もはやこれだけか)

と、あらためて得体の知れぬ恐怖がこみ上げてきた、というのである。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 07:24 | Comment(0) | 邪馬台国物語

2009年11月13日

塩豆が、好きです。ちょっと口さみしい時に、一粒、二粒と、よく噛みしめて食べます。何であれ食べる時に、しっかりと顎(あご)を働かせると、脳みそも含めて、みょうに身体の調子が良いんです。

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愛媛国縁起


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『愛媛国縁起』
【乃麻埜(のおの) 『媛国攻陣始末記』を物語りて・・・】

 この時、邪馬台国軍の最後尾あたりにいたのが、すなわち都祢那賀(つねなが)の一軍であった。突如として後方にわいて出た敵軍にも慌てなかったのは、覇津華雅(はつかが)さすが・・、である。
 何しろ当代きっての名将なのである。すみやかに馬を返して敵兵に突進し、突き出された槍を三本四本とまとめて払いのけ、あるいは脇に挟んで振り回し、わっ、と後退する者どもを馬上撫で斬りにして、鬼神が憑依(つい)たかのごとくに働いた。
「しっかり掴まっておれよ」
 後ろから、腰にしがみつく神子(かみこ)に対する配慮も忘れぬ余裕があった。そうして、蜘蛛子(くものこ)のように散った敵を睨み廻し、すぐさま都祢那賀のそばまで馬を戻している。

「やあ、強いのう、爺様は」
 この期にあって都祢那賀は、いかにも嬉しげに叫んでいる。

(あいやあ、若様・・、九市(くいち)の申す通り、やはり一種の気違いなりや。)

 次々と雨中を飛んでくる矢をたたき落としながら、ふと覇津華雅の脳裏をかすめた思いである。

 時は止まらない、敵も怯まない。
「叩き潰せやあっ」
 都祢那賀も必死である。殊里(しゅり)や兵士達も果敢に挑みかかり、しかし、 例えば水田におびただしい細螺(しただみ)のように、敵兵は尽きない。

 もはや稲穂原は泥濘の中に踏みにじられ、周囲には敵味方どちらともつかない鬨(とき)と絶叫と、激しく武具のぶつかり擦れ合う音が渦巻き、戦場近在の村々では伏屋の内に農民達が寄り添い、ひたすら手を合わせて、ただ互いの身の無事のみを、見えぬ何者かに拝んでいた。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 08:30 | Comment(0) | 邪馬台国物語