2010年06月25日

若かりし上田正樹さん以上に、あこがれの北新地です。合掌

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北新地物語

「先生のお名刺入れ、すごくステキですね」
 寧々、もとい、雅華さんが、うずうず、と微笑みながら褒めてくれたのは、それこそ手間と世話を焼かせっぱなしのショルダーバッグに仕舞い込むのをやめて、手もとに置いていた逸品である。
「そうですかぁ、これも、あちこち擦り切れて、エラいボロボロでしょ」
「そんなことないですよぉ、ちょっと見せて喪ろぉてええですかぁ?」
 雅華さんの手は、これまた、いっつも超高級ハンドクリームとかをベッタリすり込んでますのやわあ、てな感じにふくよかなのであり、つい握手しては、ほたほた、と叩いてみたい欲望を、ググッとこらえて、さも何気なさそうにオスマシさんな山猿であった。
「年代までは分からへんけど、ざっと江戸時代の着物をほどいたっちゅう、古布でこしらえてもろたモンです」
「へえ、やっぱりステキやわぁ」
「昔の日本の物って、ホンマ、何でも、しっかりと丁寧な仕事してるから好きなんですよね。せやから田舎ではね、骨董市とかあったら、よう行くんですわ」
「ああ、そういや先生、たしか毎月八日でしたか、街なかに在るっていう大通寺とかってお寺さんの縁日に行かはるんですよねえ。そこに、その骨董市がたつんでしたっけ?」
 そんなことを云いつつも会長は、となりに座った子の生足をさわってゴキゲンさん、ここでも自己流カクテルを飲んでいる。
「そうなんです、けど、田舎では、けっこう骨董ブームらしくて、あちこちで市が立ってるんですよ。まあ、そんなところで気に入ったモン見つけて買うでしょ、ところが、やっぱり骨董品て、なんや前の持ち主の念が入っていそうで気色悪いから、お坊さんに拝んでもろうてから家に持って帰るようにしてるんですわ」
「それって、なんか分かる気ぃしますぅ。ええもんやったら、ええけど、怨念みたいなのやったらイヤですもんねえ」
「そうそう、ようテレビとかでやってる、祟りとかぁ」
「ホラーとかオカルトってやつでしょ」
 真野さんと、会長に生足を提供しているライムさんも話にノッてきたからには、もう山猿にとって、とうとう本性即発という危機なのである。が、しかし、ここは北新地、生きて二度と再訪叶わぬであろう聖地ならでは、またもやググウッと持ちこたえるほかにありまい。とて、すかさず千春天女さんの御利益にすがろうと龍馬扇を広げては、ハタハタハタ、と自らをあおいで熱を冷ます山猿って、ちょっと可愛いヤツだって想ってくださいませんか・・?!

 えっ?!想わない・・、やっぱし・・、あきまへんか?!へえ。

「いや、いや、先生はなあ、そないなモンは、まったく信じはらへんお人やねん。テレビも全然、ちょっとも見んのやて、ねえ、先生」
「はあ、見んどころかスイッチを入れません。ホンマ、リモコンにさえ触りもしませんねえ。そやけど周りが見てるところでは、イヤでも目に入るし音が聞こえますでしょ。それだけでも、ウンザリですわ。あんなん見てるから、いまの日本みたいになってしもたんやと、僕は思うてます」

(ホンマ、マジで、北新地で飲んでるほうが心身ともにええでぇ・・。と、いつか当たり前に云えるようになりたいのぉ。)

 いまは、たとえ口が裂けても云えない山猿としては、本当に情けなくもツラいところなのである。それにつけても、ますます会長さんの有り難さが身に沁みる、というものでもあり、じっさい、北新地の天女はんや観音さんへの想いもつのるばかりなのである。
「先生、アフターではねえ、カラオケもありますし、いよいよ絶品のタコ焼き食うてもらいますよって」
「はあ、カラオケよりもタコ焼きが楽しみですわ」
 そうであった、いや、別嬪きわまりない天女はんと観音さんたちの舞い踊りに酔うてしまって、つい忘れてしまっていたことである。
 そう、いざって時には、あの通りの辻にあったタコ焼き屋のオバちゃんに弟子入りすればいいのである。
そうすれば、恋しいあの子と、もしかしたら毎晩のように会えるのであり、もっとラッキーなら、タコ焼きを買うてもらうついでに、ちょっとした話などもできるではないか。
 しかもタコ焼きという食べ物は、山猿が大好物のベストファイブにランクインしているものなのである。
これぞ、すなわちトリプルラッキー!!という、究極なる裏技であろう。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 12:18 | Comment(20) | 実録 華も実もある北新地物語

2010年06月23日

もはや北新地は僕の心にも第二の故郷です。合掌

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北新地物語

「そやけど、北新地の女性て、皆さん、綺麗なだけやのうて、ホンマに賢いですねえ」
「ホンマて・・、どういう意味ですかぁ?」
 そんなふうに問いかえす雅華さんの目は、いわゆる知性あふれる輝きに眩しく、むろん、それは今まで御縁をいただいた女性たちの目にも明らかなことであった。

 ちなみとて、ここで明言しておくが、たとえば真の国際人のことである。現在日本人の多くが、じつは大きにカン違いしている、と菅靖匡という男は思っているのである。
 いわゆる国際社会のなかで、まこと民族や人種の違いなど関係なくして、お互いに人間として尊重し合いつつ、さらに敬愛と親交を深めたいのであれば、という話である。

 たちまちは、地球市民、などという言葉そのものが夢想であることを、しっかりと自覚せねばならない。それぞれ人種や民族は、まこと貴賤など無い全く平等なる人間同士ではある、が、同時に厳然たる現実の存在なのである。
 したがって、真の国際人を望むかぎりには、まず互いの尊厳を思いやりながら認め合うことが大前提であろう。
 ここで、すなわち日本民族として、まさに国際社会の仲間入りしたいのであれば、しっかりとした日本語を教養と成し、しっかりと日本史と日本伝統文化を教養と成すだけでよい!!

 つまりは、それらを蔑ろ、もしくは後まわしにして、幼少の頃から英語などを学んでいることが、いかに愚劣であるかを、ちゃんと知ることから始めねばなるまい。母国の言語もロクに読み書きできず、喋ることもままならず、しかも母国の歴史や伝統文化などを知らない者を、はたして他国の誰が尊敬もてつき合ってくれようか!!
 ちょうど大河ドラマで人気の坂本龍馬はじめ幕末に生きた日本人たちに学ぶべきは、たとえば、かつて世界史、いや、人類史において汚点とも云うていい当時列強諸国が仕掛けた植民地政策なるものの愚劣さであり、ひいては明治、大正、そして昭和の戦前、戦中に生きた日本人としての誇りを、まこと謙虚に学習しつつ、DNAの記憶として思い出しさえすればいいのである。

 いや、故郷にては、そんなことを考えつつ日々を過ごしおる山猿にとって、あこがれの北新地ショックとは、そこで働く女性たちが、真の国際人として立派に成り立つぞ!という確信であった。
「僕はね、たとえば学校の勉強ができる人たちを、頭がいい、とか思わないんです。それは、ただ記憶力がいいんでしょ?!ってだけのことでして、ホンマに賢い、頭がいいってのとは違うと思ってます。僕が思う、ホンマに賢い日本人ってのは、たちまち貴女方のことですよ。しっかりとした日本語で会話ができて、ちゃんと着物が着付けられて、ちゃんと思いやりと持て成しの心を保っているってえのは、ホンマに、マジで凄く嬉しいことなんです」
「えーっ?!そんな、わたしなんか、そんなつもりじゃないですよぉ。けど、先生に、そんなふうに云うていただけるのは、ほんと、嬉しいことですぅ」
「ホンマやわぁ、今度、先生とお会いするときは、わたしも着物にしょうかしら。ねえ、雅華さん、教えてくださいね」
「わたしもっ、わたしもお願いしますぅ」
「いえ、あの、べつに着物だからいいとかってことじゃないし、着物でないといけないって話でもないワケで・・」
「いや、先生、どうやら、心から分かってもらえたようでんなあ。ほら、僕が云うてた、ホンマモンのホステス、ってことですわ」
「そら、もう、百聞は一見に・・、っちゅうことでした。本当に、有り難うございます」

 このあたりが、けっして、おべんちゃらなどではない、じつは山猿の心底よりの実感なのである。
 ただし、ここは酒席なのであり、いつまでも堅苦しい話ばかりでは、それこそ野暮というものであろう。
とて、ますます山猿の放蕩好きは燃え上がるばかりであった。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 20:25 | Comment(1) | 実録 華も実もある北新地物語

2010年06月21日

梅雨の北新地、まさに、大阪しぐれ、ですね。合掌

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北新地物語

 そこは、ガラスの城であった。豪奢なる照明が、巧みに計算された配置のガラスと鏡の絶妙な反射効果によって、山猿の目を幻惑しつつ、また、なるほど、城兵らしく行儀のいい黒服兄ちゃんたちが、さも威勢よく出迎えるさまは、秀吉と寧々の入城にもふさわしいのである。
 ただし、雅華さんのほかに、同席してくれる真野さんとライムさんは和服でないあたり、ふとANAクラウンプラザ大阪のロビーすなわち鹿鳴館をも想わせる上品なのだった。

「先生、とりあえず、今回の北新地には最後の店ですわ。吉川から始まって、まあ云うたら、だんだんと若やいできて、ここが一番若うて賑やかな女の子らやな、っちゅう感じでっしゃろ」
「はあ、しかし、雅華さんの着物姿みてたら、年とか分かりませんねえ」
「まあ、そないに老けてみえますかぁ」
 そんな雅華さんのツッコミにも、もはや慌てない山猿なのである。
「いえ、いえ、そういう意味やなくて、よう似合うてはるなあっちゅうことですよ。いや、ホンマ、さすが北新地の女の人たちって、お若いのに、着物の着付けがビシッと出来てはるなあって」

 もはや北新地屈指の超一流高級クラブも四軒めなら、すっかり心地よく酔いもまわっており、じっさい、これくらい出来上がってからが山猿としては本領発揮しやすいのだが、しかし、おそらく浮世の男どもが期待しているであろう、かの公式などを思考することは、すでに不可能でもあった。
 ともかく、みな、いずれ女優さんを目ざしはるんですかぁ、と真面目に想うほどの別嬪さんばかりなのである。また、いくら山猿の本領発揮とて、ここは北新地、すなわち山猿ごときが生きてふたたび遊びにこれるようなところではないかぎり、きわめて慎ましくして、おとなしく座っているほうが、いずれ冥土の土産としても、ついに極上の思い出になるではないかよ・・。

(えーとぉ、あし田の女将さんは、日本一の料理人でありながらサーファーという、つまりは無敵の大将のお嫁さんやから、こりゃ、すでに神棚の奥に鎮座ましますとしてぇ・・、吉川のオーナーママさんやら千春ママさんも別格やしい・・、ほてから、飛鳥さんとぉ、えーと・・。)

 これまで出会わせていただいた天女はんや観音さん方々を想い出しつつ、ぜったいに叶わぬ夢を追いかけようとする山猿って・・、けっこう憎みきれないロクデナシだと思っていただけませんか?!

「えーか、真野ちゃんもライムちゃんも、よー聞きや。野球でな、野菜さんチームと果物さんチームが試合したんや。ほんでな・・」
 すっかりゴキゲンさんである会長は、またもや恒例のクイズを得意絶頂で出題している。が、間違っても、もう聞き飽きましたでぇ、などとは素振りにも出せない山猿としては、さも熱心に参加するほかにないのだった。
 むろん、その次のクイズも分かり切っている。
「ほな、会長さん、ほらぁ、指のヤツゥ」
 自ら左手をひろげて微笑みながら、ホンマに聞きとおまっせぇ、ってな感じでオネダリしたりもするのだった。
「おお、ほな、真野ちゃんもライムちゃんも、ええかぁ。これ、何指や・・、そうそう、お父さん指やんなあ。ほな、これは?」
 と上機嫌な会長のかたわらで如才なく、しかし、微笑ではなく満面の笑みもて雅華さんは、山猿のグラスを気遣ってくれている。
「先生、ずっとロックですのん?」
「はあ、あの、超一流高級割烹の、あし田さん、では生ビールやら冷酒やらをいただきましたけどね」
「ほんと、お強いんですねぇ、ぜんぜん、お顔にも出てはらへんし」
「いやぁ、あこがれの北新地で緊張しまくってるせいですわぁ」
 云いつつ、千春ママさんに頂戴した龍馬扇を、パアッと広げて、ハタハタと使ってみせたり、作務衣の襟元をなおしてみたり、かつ、いかにも慣れた感じでグラスを振っては、氷の音を楽しむような仕草までしてみせたなら、くゆらせるタバコは、いつもなら、あとはフィルターが焦げてしまいまっせぇ、というくらいのキリギリいっぱいまで吸い尽くすクセに、半分くらいでもみ消して惜しげもないのである。

 ちなみに、たとえば故郷でも、そんな時がある。
が、故郷では、つとめてシケモクってやつを忘れないもので、ただし、ここは北新地・・、もみ消したタバコは、たった一本で灰皿ごとサヨナラしなければならないのだった。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 12:10 | Comment(1) | 実録 華も実もある北新地物語

2010年06月19日

いざ、クラブ二ノ丸さんへの道ゆきです。合掌

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北新地物語

「先生、あの古刹さんで、冬至の日いうたら、何してはります?雅華ちゃんは、その日、そこにおったっちゅうことですわなあ」
「ははあ、あっこで毎年の冬至っちゅうたら、水行してますわ。真冬の石鎚山から流れくだる清流に、どっぷり浸かって拝む、っちゅうめっちゃ厳しい修行ですねえ・・、ええっ?!ほな、雅華さん、まさか・・、水行しはったんですか?」
「はい、しっかりと川に浸かってきましたよ。第一、その修行するための申し込み受けつけは、先生がやってくれはったのにぃ」
 いや、じっさい、山猿は、そういった行事のときには手伝いにあがっており、確かに受けつけを任されていたのであった。
「この北新地から、はるばる石鎚山の山懐に登ってでっせ、おんなじ日ぃの、おんなじ時に、おんなじ水に浸かってたモンどうしが、いま、こうして北新地で同席してるやなんて、こら、もう、信じがたいほどに有り難い御縁っちゅうもんでっしゃろ」
「はあ、なんとも、まあ、ビックリしましたあっ」

 まあはあ、お前様、それ以上は伸びようもないほどに鼻の下伸ばして浮かれっぱなしやから、うちのことも忘れてしもうたんでしょう。もう、こらえられんでねえ、覚悟してちょう。

 待てっ、まあ、待ってちょうよ、お寧ぇ、わしゃ、お前のことは、夢にも忘れとりゃせんでよう。ほれ、機嫌なおしてちょうよ。

「ほな、先生、そろそろ二ノ丸へいきましょ。今晩のアフターはねえ、この雅華ちゃんがつき合うてくれますよって」
「あっ、はあ、一つ宜しくお願いしますぅ」
「先生、わたしからのお土産、マンゴージュースですけど、どうぞ、持って帰ってください」
 勝利の女神であらしゃる麗羅ママさんが微笑みながら渡してくれるお土産を、さも自然に受けとった寧々、もとい、雅華さんは、お先にどうぞ、ってな感じで山猿をうながしている。
「どうもっ、有り難うございましたあっ」
 ズラリ、見送りとて勢揃いした黒服の兄ちゃんたちとユニバースの女性方々に頭をさげつつ、出入り口へと向かう山猿の歩みをとめたのは、立ち止まってふり返った会長であった。
「先生、こいつが噂の内藤ですわ。内藤君、菅先生やで」
「どうも、本日は御来店ありがとうございましたぁ」
 そう云って深々と一礼した内藤君は、けっしてイケメンとかいう男前ではない。が、どっか憎めない愛嬌に満ちあふれており、ようは好感度抜群って感じの黒服の兄ちゃんであった。
「どうも、菅です。いや、なんや会長さんが、あなたのことを褒めてはったから、ホンマ、お会いできて嬉しいです」
「先生、こいつ、ほんまにアホでっせ、なあ、内藤」
「はあ、まあ、いろいろやらかしてますが、どうぞ、先生、また宜しくお願いします」
「こちらこそ、お願い申し上げます」
 云いつつ、くの字に曲がった通路を出て、トントンと低い階段をあがり、ますます妖艶なる輝きを放つネオンの群を、さも眩しげに見上げる山猿のかたわらには、いかにもお馴染みですぅ、といった風情で雅華さんが寄り添ってくれた。
「有り難うございました」
「どうぞ、お気をつけてぇ」
「また、お待ちしてますからね、先生」
 などと見送ってくれる麗羅ママさんや亜弥さんや雪絵さんを、何度も名残惜しそうにふり返りながら、いざ向かうは二ノ丸であった。

「ホンマに、もう、会長さんたら、足がはやいんやからあぁ。先生、どないですか?お初の北新地の感想は」
「はあ、そら、もう、最高すぎて、何がなんだか、さっぱりですわ」
「このビルです、どうぞ。エレベーターで・・、って会長さん」
 エレベーターの到着を待ちきれないらしい会長は、さっさと横の階段をあがってゆくのである。
「もう、しゃあないなあ。先生、階段でいきましょか?」
「えっ、あっ、はいっ」
「ほな、どっこいしょ、もう、荷物も重たいのに、会長さんたらぁ」
「あっ、持ちましょう」
「だいじょうぶですよ、このくらい」
 ただでさえ早足を、二段とばしでノッシノッシと上がってゆく会長のあとを、仲睦まじく追いかける山猿と雅華さんなのである。
いざ向かう先が二ノ丸であるなら、この階段が、すなわち大手道に違いなく、折り返す踊り場が、いわゆる馬止め、もしくは曲輪とでも想うていい。しかも、一緒にあがっているのが寧々さんなら、ここは大坂城か、あるいは伏見城なのか・・、山猿の想像は果てしなく膨らんでゆくのだった。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 15:30 | Comment(1) | 実録 華も実もある北新地物語

2010年06月18日

まあ、今回は中休みもかねて、ちょっと歴史にまつわる僕の本音を書いておきます。できれば、僕の想いをお察しください。合掌

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北新地物語

 さても、四国の山猿の小猿、いや、菅靖匡という小身者めは、細く拙き筆を働かせて、歴史【これは明治時代に出来た流行り言葉】というものを眺めようとしている。
 ことに、日本史のことである。
考古学によれば、この地球上に日本列島なるものが形成され始めたのは、ざっと二万年ほど前である、という。
 そこに人類が棲みついて文化ひいては文明を営なんだ形跡を、旧石器時代などとも云い、およそ一万六千五百年くらい前からを、縄文時代と称して区分して以来、弥生、古墳、飛鳥、奈良、平安、鎌倉などなど・・、それぞれ時の文化文明を象徴的に区分けしながら、ついに現在に至るのである。

 ここで、あらためて菅靖匡の眺めおる歴史とは何ぞや?!と問うてみた。答えは、たった一度たりとも途切れることなき生命の道中記じゃ!!であった。その人智なんぞ及ばずして、ようは理屈抜きに尊き生命を、さも人がましく働かせている、心、というものの織り成す物語を、およそ小説仕立てに書きつづっているばかりよ・・、ともいうている。

 じつは、心、なのである。古今東西にかかわらず、人類史における文化文明の実相とは、人と人とが互いの心の喜怒哀楽、これに尽きる。と、菅靖匡という男は信じている。
 人と人との出会いを、御縁、ともいい、そこに生ずる心と心の思いやりを、人情、ともいう。その交わりの悲喜こもごもが、一つの物語なのである。
 じっさい、先にふれたような成り立ちにて四方を海に隔てられたる日本という、まこと狭く小さな国に住み暮らして代々を重ねたる日本人なら、すなわち日本民族とも云うのであり、この民族が紡ぎあげたる人情の見事さは、ついに他国には類を見いだしがたいほどに豊潤なる文化を育み、いっそ人類史上にも希であろう繊細かつ華麗な芸術にまで昇華させたものであった。

 あえて・・、あった、と過去形にせねばならぬ寂寥こそを、菅靖匡という男は、その今にも折れそうな筆の穂先にたくしているのである。
 が、しかし、ついに有り難き御縁もて、あこがれの北新地に踏み込んだる昨今には、いまは昔とて滅びゆく古きよき日本の心を、その美しき日本人の文化の華を、北新地の女性たちによって現に体感させていただいたものであった。

 たかが水商売の・・、などと、さも偉そうに云いながら気どっている、自分は賢いと思い込んでいる阿呆な方々こそが、じつは日本という国を健在の惨状にまで貶めた立役者たちじゃ!!
 と、菅靖匡という小身者は、本気で考えているのである。

「もう、そんなことより、先生、思い出してくださいました?」
「はい、はい、せやから、その、あれでしょ、ほら、一年半前の、えらい寒い日にね、その、ほら・・」
「ヒント1、先生の故郷にある古刹さん、ヒント2、冬至の日」
「えっ?!・・、ああ、あそこね・・」

(えらいこっちゃ、えらいこっちゃあ、とうとうヒント2まで、きっぱりと出したっちゅうことはやなあ、こりゃ、もう、ぜったいウソやないっちゅうことでぇ・・、ということはぁ、ワイって・・、ホンマに、こないな別嬪さんに手ぇ出したっちゅうことやわなあ・・、けど、なんぼ酔うても記憶なくすことだけは無いんが、ワイの、たった一つのトリエやったのにぃぃぃ。)

 しかし、すでに北新地の魔法のうちで舞い上がってしまっている山猿としては、ただただ気があせるばかりなのである。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 11:46 | Comment(1) | 実録 華も実もある北新地物語

2010年06月16日

ついに、この日の北新地超一流高級クラブ巡拝ツアーのファイナルを飾る、クラブ二ノ丸さんも間近です。が、しつは、まだまだ終わらないですけどね。合掌

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北新地物語

 いや、云うまでもないことながら、根っからの着物美人好きである山猿にとって、あし田の女将さんやクラブ吉川の千春ママさんはじめ、あこがれの北新地で出会った着物美人、むろん、いま眼前にて頬笑む勝利の女神すなわちユニバースの麗羅ママさんの目の眩むほどの目映さは、現代有名女優さん方々に勝るとも劣らぬ素晴らしさなのである。が、そこへ突如として来臨したる観音さんが、燦然とて放つ後光の凄みとは、これ、どうしたことであったのか。

 まあ、お前様ぁ、ほんに花や蝶みたいな綺麗どころに囲まれて、すっかり有頂天の夢見心地みたいで、けっこうですこと・・。

 ありゃりゃあっ、お寧々っ、いやっ、なんのことはないでようっ、わしゃ、おみゃあ様こそを待っとんたんだぎゃあっ。まあはあ、よう来たあっ、よう来てくりゃあしたのうっ、お寧ぇぇっ。

「会長さん、今晩はぁ、菅先生も、お久しぶりですうぅぅ」
「おお、雅華ちゃん、あいかわらず元気そうやなあ。先生、どないです、この子、覚えてはりますか」
「えっ、そのっ、マサカさんっ?!そうそう、雅華さんでしょ?!いやあっ、まさかっ、忘れるはずがありませんよっ、いやっ、お久しぶりですうっ、なんとまあっ、あいかわらずですねえっ」

 お前様ぁ、まさかっ、北新地を代表する別嬪さんたちに次々と心を奪われて、とうとう骨抜きになってまったんきゃあなもっ!!

 えっ?!いやっ、お寧ぇ、そぎゃあに怒るもんではにゃあでよう、ほれ、今宵はめでたい醍醐の花見だで・・、のう、ほれぇ、お寧々様よう、まあ、とにもかくにも一杯やってちょうでぁやぁ。

「先生、ホンマに分かってはりますか?次いくクラブ二ノ丸の、雅華ちゃんでっせ、しかも、先生とは冗談抜きで摩訶不思議な御縁なんでっせ、なあ、雅華ちゃん」
「はい、初めてお会いしてから、もう一年半ぶりくらいですぅ、あの日は、ホンマに寒かったわぁ」
「はいっ、はいっ、いやあ、あれから、もう一年半とは、こりゃ、オッチャンも年とるはずですわなあ・・、ホンマ、懐かしなあ」

(えーと、一年半前っちゅうたらぁ、去年、いや、おととしの冬のぉ・・、ちょうど12月頃やんなあ。その頃のワイはというとぉ、えーと、もちろん北新地に来たワケやないしぃ・・、いったいぜんたい、どこで、どないしてたっけぇ。それより何より、こない可愛らしい子ぉと会うて、忘れるワイやないでぇ・・、いや、待て、待てぇ、その時は着物やなしにドレスとか着てはったんかぁ?せやったら、とーぜん、髪型とかも違うワケでぇ・・。あはぁぁん、こりゃ、また会長がワイをからかう手ぇやろ、前もって、この子と打ち合わせしとんねん。うんっ、せやっ、間違いないわいっ。)

「先生、ホンマに覚えてくれてませんのん?ウチ、ほんと、がっかりやわぁ」
「はは、まさかぁ・・」
 シンからガッカリしたように云う雅華さんの、たった一言で、つい先ほどの確信も、粉微塵に吹っ飛んでしまう山猿なのである。

 お前様ぁ、なんぼ何でもウチを忘れてしまうほど浮かれてたやなんて、それこそ堪忍袋の緒ぉ、ぶち切ってしまいましょかあっ!!

「へえ、雅華ちゃん、ホンマに先生とは、お初ちゃうのんやねぇ」
「はい、麗羅ママさん、じつは、ウチね、一年半ほど前に」
「まあ、まあ、ええやないか、もうちょっと云わんとこ。きっと、先生も思い出さはるて、ねえ、先生・・、まさか、あないな有り難い御縁で結ばれた雅華ちゃんを忘れるワケおまへんわなあ」
「えーっ、結ばれたぁ?!結ばれたて、先生・・、雅華ちゃん」
 さもビックリしたように目をみはる麗羅ママさんは、まこと勝利の女神そのものであったし、にわかに沸き立つ亜弥さんや雪絵さんの勢いには、もう引きつった苦笑いしかできない山猿なのである。

(ちょっと待っとくれやっしゃっ、会長はんっ、云うにことかいて結ばれたて・・、一年半前の12月やろ、その時にワイは故郷におったはずで、そこで、こないな可愛らしい子ぉと結ばれたっちゅうことはやなあ・・、えーと、せやから、その、つまりぃ・・。)

「ほら、先生、乾杯したら思い出すかも?!ですよぉ」
「えっ?あっ、そうっ、そうですねえ・・、ほな、カンパァイ」

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 14:52 | Comment(7) | 実録 華も実もある北新地物語

2010年06月14日

この物語は、菅靖匡が実体験させていただいた事実をもとに、ただの小説として創造するフィクションであり、作者以外の登場人物およびクラブ等は、まったく実在のものとは関係ありませんっ。合掌

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北新地物語

 風の噂はどうやら胸に 蒔いた覚えの罪の種

「まあ、先生、こないな別嬪ばっかりに囲まれて、どうも思わんほうが、男としては、おかしいっちゅうもんでっしゃろ」

 どっちも色よい返事があって 迷っている間に逃げた恋

「はあ、まあ、そういうもんかも知れませんねぇ」

(とは云うても、まずは先だつモンがないとなあ。いつか自分の甲斐性で、なんぼでも会長さんに御礼でけるくらいにはならんと、こないな別嬪さんはハナもひっかけてくれるかい。まあ、そやけど、ホンマ、いまに見とってくれよ、ワイだってぇ・・、いう気ぃにさしてくれるだけで、なんとも有り難いこっちゃあぁぁぁっ。)

「ねえ、先生、すごくステキなお召し物、ピシッと着こなしてらっしゃるってことは、いつも、そんな格好してはりますの?」
 そんなことを云うてくれる麗羅ママさんの微笑は、たとえば、いわゆる勝利の女神を想わせるに充分すぎる目映さなのである。
「はあ、まあ、普段着ですねえ、いっぺん着ると、ホンマにラクやし、クセになってしもぉてぇ」

(けど、これは、あつらえて買うたばっかしの一張羅でっせぇ。)

 さっと襟をなおしつつ、背筋も正して、ちょっと畏まらないと、とても麗羅ママさんのとなりに座ってなんかいられない山猿であった。
 が、しかし、本当に北新地の女性方々は鋭く、しかも聡い。
「やっぱりねぇ、ほんとに自然に馴染んではりますもん。そこまでステキな雰囲気だせるのは、着慣れてはる証拠ですもん。そのあたり、わたしの着物は、どないです?着物好きの先生のお目に、かなうやろかしらぁ?」
「そっ、そらもうっ、バッチリですぅっ、麗羅ママさん、すなわち着物、着物、すなわち麗羅ママさん、っちゅうくらい馴染んでますよっ、いやっ、ホンマのホンマっ、目がくらんでますっ」
「まあ、そないに先生に褒めてもろぉたら、ホンマに嬉しいわあ、着付けてきた甲斐があったわぁ」
「先生、麗羅ママはねぇ、ドレスでも、ブルッときまっせ」
「分かります、分かります、ママさんやったら、もう」

(裸がサイコーに美しいと想いまっせえぇぇぇぇっ。)

「どないな格好でも、まるで勝利の女神さんそのままですうぅぅ」
「おっ、そういや、まだ内藤を見かけんなあ。先生、ここの黒服の内藤っちゅうんはね、ホンマにアホですねん」
「もう、イヤですよ、会長さん、その話はぁ」
「おっと、そないにマジで怖い顔しぃな、云わへんがな」
 ようやく会長が口にチャックする真似して笑ったあたりも、やはり麗羅ママさんによる魔術の見事さであったに違いない。

(ああ、よかったあぁっ、ようやっと普通の会長さんに戻ってくれたわぁっ。しゃあけど、内藤君、いったいぜんたい、どないな話やねん。それより、まずは、どないなお顔してますねやぁ、ねえ、内藤君。)

「それより、先生、いただいた御本、いつの時代の歴史ですか?もう、はよ読みたくて気になって、気になって」
 云いながらグラスにつける麗羅ママさんの唇は、まるで、もぎたてのサクランボみたいにも想え、あんなんでキスしてもろたらワイは一発で即身成仏やろなあぁぁ、なんて夢見る山猿なのである。
「あれですかぁ、あれは戦国時代のね、信長やら秀吉やら家康に仕えた武将の物語ですぅ。その嫁さんとかはぁ、まるでママさんやら皆さんみたいな女性ばっかしですよ、ホンマに、もう」
 と云うた山猿の目の前に、ホンマモンの寧々【ねね=秀吉の愛妻】さんが現れたのは、まさに、この時であった。

 すなわち、その途端に山猿は、高杉晋作でもマイケル・コルレオーネでもなく、まこと醍醐の花見にて、よりどりみどりに別嬪さんをはべらせて有頂天に浮かれていた秀吉そのままの心地だったのである。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 23:20 | Comment(1) | 実録 華も実もある北新地物語

今回は、いわゆる18禁といたします。また一般道徳上に鑑みて不適切な言葉や表現がありますが、当時の雰囲気を忠実に再現せんがため、あえて修正しないまま表記しました。合掌

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北新地物語

 惚れた数からふられた数を 引けば女房が残るだけ

どうやら会長、別嬪さんの横で酔うてゴキゲンさんになると、都々逸を口ずさむのがクセらしい。
 あははぁ、と聞き流しながら、クラブ吉川の千春ママさんにいただいた龍馬扇にて、すっかり高杉晋作に成りきってしまっている山猿も、つい調子を合わせたりした。
「僕は、都々逸やったら、三千世界、が大好きなんですよね」
「わあ、先生も都々逸なんか知ってはるんですかぁ」
「まあ、会長さんほどじゃないですけどね」

(なんせ、三千世界は、ワシがこさえた唄じゃけぇのう。あんときゃあ、おうの、の膝枕で気持ちよう唄うたもんじゃった。三千世界のカラスを殺し〜、ぬしと朝寝がしてみたい〜、ってかあ・・。)

「いや、先生、聞いとくなはれ。これだけは、はっきり云うときますわ。そら、確かに僕が気に入ってる子ぉと同伴する時にはねぇ、いっつもやったら、遅うても当日の昼過ぎには逢うて、まずは」

 横に寝かせて枕をさせて 指で楽しむ琴の糸

 膝にあそばせ胸にも抱いて そっと鳴かせる三味の糸

「ちゅうもんですわ。ほんで、まあ軽く食事したりもしますわなあ。そやけどね、先生、この旭菜優ママだけっ、この優ママだけはっ、今までっ、いっぺんもっ、オメコの毛ぇの一本たりとっ、ただの一本もでっせっ、触らしてくれたことおまへんねんっ、どないだっ、えっ、先生っ、どない思わはりますかっ」
「ええっ?!いやっ、そのっ、どないもこないも・・」
「先生、ワシャア、この世へ向いて親分になるために生まれてきたようなもんですよ。じゃけんど、先生、ワシャ、会長じゃあ、会長じゃあ云うてもよ、なかなか自由になりゃせんのですよ。のう、優ママ、お父ちゃんは、お前の好きな金の玉を、ふたぁつも持っとるんじゃけん。ちゅうて、先生、ワシャ、これのこと想うてよ、ええ具合に塩梅しとっちゃるんじゃけん、云うてナンボ口説いても、こんなぁ、オメコの毛ぇも触らしゃあせんのですよ」
「いやっ、そのっ、まあ、毛をさわるくらいやったら・・、ねえ」
「教育者の先生が、そったらことぉ云うたら、いけんでしょうが」

「・・会長さん、どないしはったんですか?すっかり酔うてはりますのん?」
 旭菜ママさんが苦笑しながら云い、亜弥さんたちは呆気にとられた真顔で、しかも、山猿を見据える会長から目をそらしている。
「いや、あの、いま会長さんが云わはったんは、『仁義なき戦い』のなかの名ゼリフばっかりですよ・・、ねえ、会長さん」
「ほいじゃ云うといたるがのぉ、広島極道はイモかも知れんが、旅の風下に立ったことは、いっぺんもないんでぇ」
 ギリッ!と眼を据えて云うなり、さも不機嫌そうにグラスをとったあたりは、なるほど、かの小林旭に成りきってきるらしい。
 ただし、最初のセリフは金子信夫さん演ずる山守組長のそれであり、教育者うんぬん、は菅原文太さん演ずる広能組長のそれである。ただし、会長はノリノリでふざけているつもりであろうが、山猿はじめ周囲は、あまりの恐ろしさにビビっているだけであった。
「あっ、会長さん、先生、ちょっと失礼しますぅ」

ほらね、旭菜優ママさんが忙しそうに席を離れていっちゃったぁ。

 いや、もちろん、お店が忙しいからであり、決して会長さんに恐れをなしたワケではないことだけは、ここに明記しておこう。
「どうですか、先生、ありゃあ、ワシにオメ」
「分かりました、分かりましたけん、会長さん、ほら、もう、機嫌なおして飲んでつかぁさいや、こんとおりですけん」
「広島の喧嘩いうたら獲るか獲られるかでぇ、いっぺん後手にまわったら、死ぬまで先手にゃあまわれんのじゃけえ」
 あらためて断っておくが、この会長は、某大手会社のトップであって、決して、あちらの業界の方ではない。
 ただし、そうとう小林旭に憬れているらしく、しかも、一度やり始めたなら、とにかく自分の気がおさまるまでは周囲なんぞ関係なくなる、という習性を、これは、かなり強めに保っているようで、ことに豪華セットが出来上がっているところでは気合いもはいりやすいのであろう、その演技も迫真そのものなのだった。

「もう、会長さん、おふざけが過ぎますよ。亜弥ちゃんも雪ちゃんんも、ホンマに怖がってますやん」
 ようやく麗羅ママさんが戻ってくれて、なんとか落ち着いたものの、いまだ会長の眼は、その眼鏡の奥で据わりっぱなしなのである。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 12:29 | Comment(0) | 実録 華も実もある北新地物語

2010年06月13日

実名で出演してる僕は仕方ないとして、どうやら会長さんを実在の誰かしらと想い込んでる人々も少なくないようですが・・、あらためて、それは、ただのカン違いですよっ。合掌

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北新地物語

「いやあ、雪絵さんでしたよねぇ、僕が学生の頃に使ってたペンネームは雪乃っていうんです、一字違いでしたね」
「ホントですかぁ、でも、やっぱり学生さんの頃から書いてらっしゃったんですね」
「いえ、その頃には小説とかやなしに、詩ぃでした。ジョンレノンに憬れて、なんか書こうと思うようになったんですよ」
「ああ、それで丸い眼鏡をかけてはるんですね」

 もう、いっぱいいっぱいなんは分かってるけど、せめて誰に似とるかぐらいは教えたれよ、のう、スケベ産婦人科の悪徳センセー。

 おお、スマンのう、ホンマにこれ以上の女優さんは知らんのじゃい。まあ、あえて知っとるいうたら、あとは有名AV女優さんくらいなもんやけど、それで公式つくったら、北新地の女の人らが気ぃ悪うするやろから、慎んでひかえさしてもらうわい。

 アホやのう、女優やのうても歌手とかタレントとか、女子アナっちゅうんもおるやろが。なあ、ちょっとでも教えたれよ。

 お前らも、しつこいスケベやのう、ワイはテレビやら全然観んのじゃ、ボケェ。そやけど、まあ・・、ほな、ちょっと待てぇ、インターネットで調べてみたるわい。
えーとぉ、亜弥さんはなぁ・・

『スローなブギにしてくれ』に出てはる浅野温子さん×(秋本奈緒美−推定年齢27)がベースや。
ほてから雪絵さんはぁ・・・

デビューしたての八神純子×(手塚理美−推定年齢26)
これをゴマダレドレッシングで軽く和えました、っちゅうとこか。

「ただ丸いだけやのぉて、先生の眼鏡はホンマにジョンレノンのヤツやで。ねえ、先生」
「えっ、いえ、おんなじいうても、ただのレプリカですからぁ」
「それでも、すごいわあ。よう似合うてはりますし」
「亜弥ちゃんの云うとおり、ホンマ、よう似合うてはりますよ」
「はは、ありがとうございますぅ、100%お世辞でも嬉しいですわぁ」

(エヘッ、ほんとは自分でも、そない思うて掛けてるんやけど、たちまち謙遜しとくんが大人っちゅうもんやでえ。何でも、ひかえめにしとったら、あとあと・・、全然似合うてへんかったわね・・、ほんと、ダサァって感じぃ・・、ジョンレノンやらガンジーどころか、ホラ、滝廉太郎を叩きつぶしたみたいやったわぁ・・、とか云われた時に、メゲずにすむもんねえ。そやけど、こうやって短時間で店移動すると、おんなじ話題で済むあたりがラクでええわなあ。なんてったって、そのほうが美女に集中でけるもんね。いや、ホンマ、今晩やったら黒服の兄ちゃん全員一斉にかかってきても、なんや、負ける気ぃせんもんなあ・・。)

 もともと別嬪さんを前にすると、ふだん以上に話題に困り果てる山猿にとっては、このあたりが本音にも近い。
 が、ついつい気をゆるめてしまっていた山猿の眼前に、さらなる必殺パンチがくり出されたのも、じっさい、この時である。
「ごめんなさいねぇ、遅くなりましたぁ」
「おっ、旭菜ママ、待っとったで、逢いたかったわ。先生、こちらが、北新地を知り尽くした僕のイチ押し、旭菜優ママですわ。ママ、こちらが、わざわざ四国愛媛は西条から、はるばる来てきれはった菅靖匡先生や。かんの、ぶただ、ちゃうんやで。かん、のぶただ、先生やでぇ」
「お初にお目にかかりますぅ、旭菜優いいます、どうぞ、お見知りおき願いますぅ」
「はっ、あのっ、菅ですっ、今日は、すっかり会長さんに甘えさしてもろてますっ、どうぞっ、ヨロシクお願いいたしますっ」
 なかば腰を浮かせて、小さく前へならえっ、しながら、ペコッ!と頭をさげた山猿って、きっと周囲からも可愛らしく映ったことであったろう。
 そんなことを瞬時に判断する山猿なら、すでに、たとえば世界の巨匠である北野武さんと同様に、自ら監督作品に主演するようなものであり、コイツゥ、なかなか大したヤツなのである。
「まあ、優ちゃん、はよ座りぃな、まずは乾杯しょーやないか。ああ、そや、先生、優ママにも本をプレゼントしたげとくなはれ」
「あっ、はいっ、そらもう、喜んでえっ」
 おおっと、ところがどっこい、カンジンのショルダーバッグめは、先に用済みとて黒服の兄ちゃんに預けてしまっていたのだった。
 なんせ、極妻やってる高島礼子と『太陽にほえろ』でマカロニ刑事の恋人っぽい役してはった高橋恵子を混ぜ合わせて、極上デミグラスソースを和えたのちに漂白したみたいなママさんが、手をのばせばとどくほどの距離で微笑しているのである。慌てるなやあ、というほうがムリであろう。

 それこそ、アタフタしまくりで、なんとか黒服の兄ちゃんにバッグを持ってきてもらい、やっと本と名刺を受けとってもらえた。
 ああ、やれやれ・・、と思った刹那、ついに会長が、その身をのりだしては、チョイ、と右手のお母さん指で眼鏡の位置を押し上げ、とんでもない一言を発したものであった。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 19:45 | Comment(0) | 実録 華も実もある北新地物語

昨日は西条で飲みました、案の定、ひどい二日酔いでした。あの大阪で迎えた朝の清々しさは、もう二度と味わえないのでしょうか。合掌

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北新地物語

 いくら四国の山猿とて、少しは落ち着いてショルダーバッグをいじったなら、一つだけヒモの無いチャックをさがすのは大した苦労でもなく、しかも仕込んできた本が減っている分だけ、心の負担も軽くなっている。
 さらに杯を重ねた酒のせいでもあろう、ずいぶんと気が大きくなりつつある山猿なら、本を受けとっていただだき、名刺交換などしたとたんに、さも慣れた手つきで千春ママさんから頂戴した龍馬扇を使いこなし、ハタハタ、自らをあおぐうちに気分は、ふたたび高杉晋作君なのである。
「ほな、会長さん、菅先生、カンパ〜イ」
「先生、あらためて、北新地屈指の美貌を誇る麗羅ママと、こっちが亜弥ちゃんですわ」
「どぉも、初めましてぇ、菅先生、御世話になりますぅ」
 しっとりとした金色に輝くドレスに身を包み、さらに漆黒に薄いカーデガン【女性の服の正式名称など分からないんです】をフワリと着こなした亜弥さんと軽くグラスを合わせ、すかさず麗羅ママさんとも乾杯した刹那には、なぜだか作務衣を着たマイケル・コルレオーネに成りきっている山猿でもあった。

「先生、どうですか、北新地。たしか最初は吉川さん、つぎに岩室さんとお聞きしましたけど、二軒とも新地に名だたるクラブですから、すっかり北新地の夜を満喫してはるんちゃいますのん」
「そらもう、最高ですねえ。いや、ホンマ、ここもまた雰囲気が違うて、まさに極楽巡礼ツアーですぅ」
「そういや、先生、じつはねえ、さっきお会いした岩室の冬子ママさんて、昔、僕の叔父貴と恋人どうしやったそうですわ。いや、さすがにママさん御本人から聞いたんやのうて、吉川に古株の黒服から仕入れたことですけど、まあ間違いない情報ですわなあ」
 先に提示した公式によって求められた答えに、『激動の1750日』に出演している岡田茉莉子−推定年齢52したような麗羅ママさんのとなりで、えらく饒舌になった会長なのである。

(おっとっとぉ、なんぼアルコール控えめの自己流カクテルっちゅうても、そろそろ酔うてきよったな。そやけど、ますます『仁義なき戦い』に出てはるような雰囲気も増してきて、知り合いやなかったら、このオッサンには近づかんとこっ、ちゅう感じやのう、しかしぃ・・。)

「まあ、先生、麗羅ママの云うとおり、ちょっとは夜の北新地にも慣れてきたんちゃいますか?けど、まだまだ、これからでっせ」
「はいっ、もう成仏覚悟の死んだ気ぃですけんっ」
 つい故郷の方言を出してしまった山猿ではある、が、これがいけなかったらしい。その眼鏡の奥で、会長の眼が鈍く光った。
「その意気ですわ、先生、まずは今晩のアフターまで、きっちり、つき合うとくなはれや」

 遅い帰りをかれこれ言わぬ 女房の笑顔の気味悪さ

と、お気に入りらしい都々逸を口ずさみ、さらに会長は眼を据えた。
「僕も、腹は括っとりますよって・・、頼んまっせぇ」
「そらもうっ、極楽の果てまででも御共さしてもらいますっ」
「あっ、すみませぇん、ちょっと失礼しますぅ。雪絵ちゃん、宜しくね」
「はい、会長さん、菅先生、今晩は、雪絵です」
 会長の都々逸に合わせて舞いを舞うように席を立った麗羅ママさんのあとには、これまた黒っぽい着物をビシイッ!と着付けた雪絵さんが座り、いかにも慣れた手つきで軽く乾杯などをした。
 云うまでもなく、広い店内は満席である。むしろ、これまでの店より多いのではないか、と思われる黒服の兄ちゃんたちが、まったく映画で観るボディーガードそのままに直立不動、あるいは忙しくインカムをいじりながら移動し、そのあいだを蝶々みたいにヒラヒラと行き交う天女さんと観音さんたちなら、きわめて厳しい山猿監督にすらダメ出しするスキもあたえずして、もう撮影も絶好調なのである。

「なあ、亜弥ちゃん、今日は、旭菜ママは忙しいんかなあ」
「優ママさんは、いまちょっと・・、けど、必ず御挨拶にきますって云うてはりましたよ」
「ほうか、先生、麗羅ママもそうやけど、ここでは是非とも旭菜優ママを紹介さしてもらいたんですわ。じつは僕はねえ、旭菜ママこそが北新地で一番というてもええほど、惚れてますねん」
「はあ、そうなんですかぁ」

(ついさっきの岩室さんでは、れんさん最高って云うてたやなかですかぁ。ワイが連れてきてもろた店ことごとく、最高ですうっ、て云うてんのと、どっちがどうやねん。ばってん、ホンマに、もう、どこまで正気なんか、ワケ分からんオッサンやでぇ、しかしぃ・・。)

「ああ、せや、せや、先生、この店の黒服にね、内藤っちゅう若いモンがおりますねんけど、コイツがまた、底抜けのアホでオモロいヤツですねん」
 と云いながら、グラスを置いた会長は、キョロッキョロッと店内あちこちを見渡していたが、やがて、またグラスを手にした。
「ちょっと見当たりませんわ、まあ、またあとで見えますやろ」
「えっ?!なんでしたら、内藤さん、お呼びしましょか?!」
「いや、いや、かまへん、わざわざ呼びつけるほどでもないわ。それより、雪絵ちゃん、先生にお作りしたげてぇな」
「あっ、はい、すみません、失礼しますぅ」
 愛想よく頬笑んだ雪絵さんが、お代わりをこしらえてくれる間にも、なんだかソワソワし始めたような会長を見やった山猿であった。

(こりゃ、どうやら会長はん、ついにノッてきたらしいでぇ。)

 なにせ平然と生足を触りまくる人なのである、そんな人が酔ってはずすハメとは、いったいぜんたい、いかほどのものであろう。
とて、ますます期待も高まる一方ではないか・・。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 12:24 | Comment(0) | 実録 華も実もある北新地物語