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北新地物語
「先生のお名刺入れ、すごくステキですね」
寧々、もとい、雅華さんが、うずうず、と微笑みながら褒めてくれたのは、それこそ手間と世話を焼かせっぱなしのショルダーバッグに仕舞い込むのをやめて、手もとに置いていた逸品である。
「そうですかぁ、これも、あちこち擦り切れて、エラいボロボロでしょ」
「そんなことないですよぉ、ちょっと見せて喪ろぉてええですかぁ?」
雅華さんの手は、これまた、いっつも超高級ハンドクリームとかをベッタリすり込んでますのやわあ、てな感じにふくよかなのであり、つい握手しては、ほたほた、と叩いてみたい欲望を、ググッとこらえて、さも何気なさそうにオスマシさんな山猿であった。
「年代までは分からへんけど、ざっと江戸時代の着物をほどいたっちゅう、古布でこしらえてもろたモンです」
「へえ、やっぱりステキやわぁ」
「昔の日本の物って、ホンマ、何でも、しっかりと丁寧な仕事してるから好きなんですよね。せやから田舎ではね、骨董市とかあったら、よう行くんですわ」
「ああ、そういや先生、たしか毎月八日でしたか、街なかに在るっていう大通寺とかってお寺さんの縁日に行かはるんですよねえ。そこに、その骨董市がたつんでしたっけ?」
そんなことを云いつつも会長は、となりに座った子の生足をさわってゴキゲンさん、ここでも自己流カクテルを飲んでいる。
「そうなんです、けど、田舎では、けっこう骨董ブームらしくて、あちこちで市が立ってるんですよ。まあ、そんなところで気に入ったモン見つけて買うでしょ、ところが、やっぱり骨董品て、なんや前の持ち主の念が入っていそうで気色悪いから、お坊さんに拝んでもろうてから家に持って帰るようにしてるんですわ」
「それって、なんか分かる気ぃしますぅ。ええもんやったら、ええけど、怨念みたいなのやったらイヤですもんねえ」
「そうそう、ようテレビとかでやってる、祟りとかぁ」
「ホラーとかオカルトってやつでしょ」
真野さんと、会長に生足を提供しているライムさんも話にノッてきたからには、もう山猿にとって、とうとう本性即発という危機なのである。が、しかし、ここは北新地、生きて二度と再訪叶わぬであろう聖地ならでは、またもやググウッと持ちこたえるほかにありまい。とて、すかさず千春天女さんの御利益にすがろうと龍馬扇を広げては、ハタハタハタ、と自らをあおいで熱を冷ます山猿って、ちょっと可愛いヤツだって想ってくださいませんか・・?!
えっ?!想わない・・、やっぱし・・、あきまへんか?!へえ。
「いや、いや、先生はなあ、そないなモンは、まったく信じはらへんお人やねん。テレビも全然、ちょっとも見んのやて、ねえ、先生」
「はあ、見んどころかスイッチを入れません。ホンマ、リモコンにさえ触りもしませんねえ。そやけど周りが見てるところでは、イヤでも目に入るし音が聞こえますでしょ。それだけでも、ウンザリですわ。あんなん見てるから、いまの日本みたいになってしもたんやと、僕は思うてます」
(ホンマ、マジで、北新地で飲んでるほうが心身ともにええでぇ・・。と、いつか当たり前に云えるようになりたいのぉ。)
いまは、たとえ口が裂けても云えない山猿としては、本当に情けなくもツラいところなのである。それにつけても、ますます会長さんの有り難さが身に沁みる、というものでもあり、じっさい、北新地の天女はんや観音さんへの想いもつのるばかりなのである。
「先生、アフターではねえ、カラオケもありますし、いよいよ絶品のタコ焼き食うてもらいますよって」
「はあ、カラオケよりもタコ焼きが楽しみですわ」
そうであった、いや、別嬪きわまりない天女はんと観音さんたちの舞い踊りに酔うてしまって、つい忘れてしまっていたことである。
そう、いざって時には、あの通りの辻にあったタコ焼き屋のオバちゃんに弟子入りすればいいのである。
そうすれば、恋しいあの子と、もしかしたら毎晩のように会えるのであり、もっとラッキーなら、タコ焼きを買うてもらうついでに、ちょっとした話などもできるではないか。
しかもタコ焼きという食べ物は、山猿が大好物のベストファイブにランクインしているものなのである。
これぞ、すなわちトリプルラッキー!!という、究極なる裏技であろう。



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