2010年05月31日

アップ予定がずれこんでしまい、やや慌てての更新です。どうぞ、北新地の皆さん、チェックよろしくお願い申し上げます。合掌

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北新地物語

 ウソではない、なんと山猿は、千春ママさんとツーショット、これで鼻の下が1pのびていることに気づかないまま、これを両手に華と云わずして何ちゅうねやっ、とて、すずさんと桔梗さんに挟まれてぇ1pのび、さらに飛鳥さんとツーショットォ、で1pのびてしまった証拠写真があるのだが、いま見返しても恥ずかしい。

 しかも、である。そうして山猿がデレデレェとなっている間に、千春ママさんが黒服の兄ちゃんを呼び寄せていたらしく、北新地クイーンであります美紗子さんとのツーショットまで、ちゃっかり頂戴したものであった。
もう山猿、すなわち骨抜きってヤツである。
 ちなみに北新地クイーンとは、ざっと一人のこらず才色兼備を誇っていいであろう北新地ホステスさんのなかの女王なのである。

 そんなん分かるわいっ!はよっ、公式発表せんかいっ、ドアホッ!なあんていきり立つ俗世に迷うた男どもには、きっと想像することさえむつかしいであろう・・。
 が、あえて公表すると・・・

(極妻のなかの岩下志麻さんにホイップしたフレッシュ生クリームを添えてのち推定年齢ー41×『やまとなでしこ』に出演している松嶋菜々子)+人気絶頂期の阿木耀子

この式によって求められた答えを、さらに・・・・

 ここまでで、もう山猿、いっぱいいっぱい、なのである。

「先生、そんなんしたらイヤやぁ、つけさしてください」
「ええぇぇぇ、そぉですかあぁぁ」
 山猿がタバコをくわえては、さながら現在日本で凶器のごとくに騒がれ始めた百円ライターで自ら火ぃつけようとした刹那、かたわらの飛鳥さんが云うてくれはった言ノ葉である。
 フワァァ、と微笑しつつ飛鳥さんは、その・・・、そらもう高級エステで磨き上げてますぅ、としか云いようのない指先で灯したマッチを、山猿の眼前に差し出してくれたのだが、その手に包まれた小さな炎は、すなわち山猿が参拝する折りの神棚や仏壇の灯明そのままの温もりなのだった。
 それは、まるでヴィルヘルム・レントゲン博士が発見したというX線よろしく、彼女の細い指を半ば透かして淡く、しかし、鮮やかなオレンジ色に輝き、ついに山猿が吸いなれたる、労働者の煙草ハイライト、を極上の一服へといざなうばかりなのである。

(嗚呼、この世のすべての憂鬱を、淡く、しかし、鮮やかなる紫煙と成して吹き払いつつ、すわ極上きわまりなき至福へと誘う、この煙草にて・・、たとえ病気になって死んでもええわっ、もっとプカプカプカァァァ、と吸うてこましたろっ。)

 一瞬にして、たとえばマリファナにも化けてしまったようなハイライトを、だが、しかし、できるかぎり、大好きな『ダイハード』のブルース・ウィルスを意識しながら、パァパァとくゆらせる山猿であった。
 また、その一本を吸いおさめた刹那・・・

(おーい、ニイちゃん、ネエちゃん、灰皿て何のためにあるんか知ってるかあ、煙草の灰だけやのうて、最後の火ぃを安全かつ安心に始末してまうためにあるんやぞぉ、こんなことしてたら火事になってまうでぇ・・。)

 追加注文をとりにきた店員に云いたくなるようなことは、決して無い。やや先んじて云うてしまえば、北新地の超一流高級クラブにある灰皿は、タバコ一本っ!たった一本のタバコのために存在しているのだった。
 山猿が満喫したタバコをもみ消すや、ごく当たり前のように新しい灰皿と置き換えられ、こんなんまで見落とさんと見てたんかぁ、とも云いたいほど手際よく、黒服の兄ちゃんが次の新しいそれと交換してゆくのである。

 ついでながら、このクラブ吉川を皮切りに巡礼した、すべてのお店で、そこのオリジナルマッチを頂戴したのだが、これらはすべて、山猿が故郷の拙宅に在る秘宝舘に緊急設置された、北新地超一流高級クラブ巡礼特別記念コーナーに奉納されている。
 が、来館者のうち、山猿の落款入りパスポートを提示された方には、とくに拝観を許可しおり、ただ、写真撮影や録画などは固く、これをお断りしているものである・・。

「ねえ、先生、うちの店、どうですか?さっき、先生、どっちかっていえば静かに飲みたいって云うてはったから・・」
 千春ママさんが、ちょっと心配げな表情をすると・・・

(千春さんっ、そんな顔せんと、ほら、いつもみたいに元気に笑って見送ってくれよっ、ワイはっ、ワイはっ、きっと生きて帰ってくるからっ、ねえ、千春さんっ、ワイを信じて待っといてなっ。)

と云いながら、受け取った千人針を抱きしめ、波のように振られる幾千の小さな日ノ丸に見送られては、涙をこらえて敬礼しつつ出征してゆく兵隊さんのような気分にもなる、そんな山猿なのだった。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 20:13 | Comment(0) | 実録 華も実もある北新地物語

もう、ええ加減にせえよっ、アホタレェ・・と云われても、まだまだ書き足らない僕なんです。北新地の皆々様からの、アツい応援メールがあるかぎりっ。もっと、もっと、書かせてもらいますっ。合掌

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北新地物語

「先生、わたし、先生のブログ、ちゃんと見てるんですよ」
「ほう、ホンマかいな、飛鳥ちゃん」
「はい、ほんとはね、今晩来てくれはる、って聞いてからチェックしたんですけど」
「あたしも、ママから聞いて、すぐに見ました。たしか、あれって邪馬台国の物語ですよね、さすがやなあ、って思いました」
「こりゃ、桔梗ちゃんも大したもんや。どうですか、先生、これが北新地の女の子ですわ。桔梗ちゃんはねえ、英語、ドイツ語、イタリア語に、ほんでスペイン語もペラペラなんですよ」
「へええ、すごいですねえ。いや、あらためて会長さんが云うてた、ほんまもんのホステスさん、っちゅう意味が分かりましたぁ」
「わたしかて、先生が着物好きやって聞いたから、こうして着てきたんですよ。もちろん、ブログもみたし」
「すずさん、でしたよね・・、いや、ほんま、好きなんですよぉ、よう似合おうてます、いや、ほんまに」
 みんな、それぞれ抜群に美しくて可愛いのである。
これほど綺麗なら、あとは一緒に酒飲んで、キャッキャ、はしゃいでいても充分すぎるほどなのである。

 だが、しかし・・、お前だけええ目ぇせんと、はよ、どんなふうに別嬪さんなんかを公式にあてはめて教えたらんかい、という俗世の男どもの叫び声にも、ちょっとだけお応えしておこう。
 ほな、まずは着物姿のすずさんからいこか・・。

(和風の飯島直子+デビューして間もない頃の麻丘めぐみ)×泣いてはるほしのあき

あとは、秘密です。で、つぎに飛鳥さんはというとぉ・・・

天海祐希×竹内結子×最盛期の大谷直子

ここまでしか、ダメやでぇ。ほてから桔梗さんはねぇ・・

(鈴木京香+HNKに出演した時のあべ静江)×むかしワイが一緒に暮らしてた彼女

上記の公式によって求めら・・・

 あし田の女将さんや千春ママさんのように、最後まで教えてあげないのは、決してイジワルではなく、もうすっかり酔いがまわり始めているせいであることだけは、どうぞ御了承いただきたい。
「先生、歴史上の人物で好きな人って、誰ですかぁ」
「えー?!歴史ぃ?!歴史て・・、あぁ、いわゆる歴史ってやつですね。そうですねぇ、やっぱり、その、僕が好きなんはぁ、つまりぃ・・」
「先生が掛けてはるメガネなあ、ジョンレノンのやで」
「ええっ、すごいぃ、ほんまですのん、ちょっと見せてぇ」
「えっ、ああ、そうそう、僕、若い頃から、めっちゃ尊敬してるんですぅ。けどね、もちろん本物ちがいますよ、レプリカですわ。ほれに、本物は、ここ・・、この鼻パッドが付いてませんねん。あの人、鼻が高いでしょ、せやから、僕にはムリなんで、頼みこんでね、わざわざ付けてもろたんですぅ」
「へえ、それでもすごいわぁ。ちょっと、掛けさして下さい」
「まあ、飛鳥ちゃん、よう似合うやないの」
「えー、ホンマにぃ・・・、先生、近眼ですの」
「はい、けど、ずうっとパソコンやってたら、もうあきません、すっかり老眼ですわ。近く見る時、こないして、はずさんならん」
「わたしにも見せてぇ・・、わあ・・・、けど、そんなにきつくないわ」
「すずちゃんも、よう似合うてる」

(ああぁ、これ買うとってよかったあぁ、もうそろそろボロボロやぁ、思うてたけど、まだまだっ。これも、帰ったら神棚か仏壇に奉っとこっ。いや、ほんまに、ジョンレノンはん、ありがとうっ。)

「ほんで、先生、歴史上の人物では誰ですのん」
「そらもう、ジョンレノンでしょ、ほてから、アインシュタインとね、よう似たメガネ掛けてはったガンジーですわ」
「ほな、みんなに問題や。それぞれ、フルネーム、分かるか?」
「えーっ、そんなん分かりませんわ」
「えーと、どっかで聞いたことあるけど・・、誰やったっけぇ」
「アインシュタインはアルバート、ガンディーは、たしか、マハトマでしょ」
「正解っ、すごいなあ、桔梗さん、よう知ってますねえ」
 と云いながら、ガンジーを、ちゃんとガンディーと発音したことこそを、ちょっぴり口惜しがりつつも、あらためて北新地という街のレベルの高さに驚嘆しきりの山猿であった。

(みんな、別嬪さんやし、頭もええし、いや、ホンマ、こない幸せな飲み会、生まれて初めてやぁぁ。おおきに、会長さんっ。)
 
「よっしゃ、みな、先生と一緒に写真撮ったろ。誰からでもええで、先生の横に座りぃな」
「ほな、わたしからお願いしますぅ」
「うわあ、ホンマですかあ、マジですかあ、すんませぇん」

(断言しようっ!今晩、ここにきてはる男どものうち、ワイが一番!ラッキーかつ至福の時間を満喫しているとっ!!)

 しかし、北新地の超高級一流クラブ吉川において、まだまだこんなん幸せの序の口ですねんでえ〜、ということを、この時の山猿には、つゆ知るよしもなかったのである。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 11:49 | Comment(0) | 実録 華も実もある北新地物語

北新地の皆さん、きっと毎夜、毎夜が、まさに命懸けの真剣勝負なんでしょうね。ほんと、つくづく尊敬しおります。合掌

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北新地物語

 一生涯にも記念すべき華麗なる乾杯してしまえば、そこそこ放蕩三昧だけには、なにやら自信めいたものを保っている山猿であるあたりが、高杉晋作を敬愛しきりの由縁でもあったろうか。

(まあ、ほんまの高杉君とワイの違いと云えばぁ、えーと、むこうは、ええとこの坊ちゃんでぇ、生まれつき頭がようてぇ、女にもててぇ、友達らからは一目も二目も三目も置かれて頼りになるヤツでぇ、祇園とかで芸子はん総揚げのドンチャン騒ぎ三昧しても、ぜぇんぜんヘッチャラ、まったくお金に困らんヤツでぇ・・。)

 はやい話、ぜんぜん違うのである。
が、たった今、こうして全国ホンマのホステスさんランキングでも、きっと上位常連さんに違いない女の子たちに囲まれていると、たちまち・・・

(待て、待て、ちょっと待てよ、もしかしたらワイかて、案外と捨てたモンちゃうかもよ。いまはアカンたれやけど、そのうち必ず、バシイッとカッコつけれる日ぃがくる・・、かもね。)

というような気になってくるのである。
 いや、あるいは、このあたりが北新地という現世極楽世界、また、眼前にて頬笑む天女はんや観世音菩薩さんの保つ真骨頂、すなわち御利益というものなのかも知れない。

 じっさい、まこと彼女らは、みな、マジで戦国武将の妻女がつとまるでぇ・・、と山猿を感嘆させるに充分すぎる素晴らしさもて、しかも気どらず、ただひたすら如才なくして、甲斐性無しの山猿をも、ええ気分に酔わせ、ひたらせては、さり気なく励まし・・、いまに見てみいワイだってぇ、という気にさせてくれるばかりなのである。
まさに、お見事っ!!とでもいうほかには、無い。

「先生、お名刺と本だけ持ってはったらよろしがな、もうすぐ本部長も挨拶きよりますわ。すずちゃん、先生のお荷物、預かったげて」
 その、いつでもポイ捨てしていいようではあるけれど、しかし、決してボロではなく、本当に買ったばかりで新品の、ただしチャックのヒモがとれてしまったショルダーバッグを後生大事に抱えこんでいる山猿を、ついに見かねたらしい会長であった。
「はい」
「わたしがするわ、先生、お任せを」
「いやあ、すみませぇん」

(そら、ワイはアホや、せやかて、いまに見とれよっ、ワイはっ、ワイは日本一になったるでえっ、酒やっ、酒やっ、もう一杯ついでちょうだいかあぁぁ。)

「ごめんなさい、お待たせしてぇ、やっと落ち着いたわぁ、わたしも一杯いただいてええかしら」
 日本舞踊でも舞うようにして、千春ママさんが戻ってきた。しかし、やっと落ち着いたどころか、お店は混み始めており、ずっと入口で行列してたんですかぁ、と想うくらいに続々と、いわゆる同伴のお客や女の子たちがなだれ込んでは、見る間に席が埋まってゆく。
 しかも、そんな忙しさのなかで黒服の若いモン頭みたいな人が、わざわざ寄ってきてくれて、拙著を鄭重に受け取ってくれた。
「先生、本部長の村瀬はんですわ、なんと出身は、先生と同郷ですて、なあ、村瀬はん」
「はい、先生の連載も読ましてもろてますし、どうぞ、今後とも宜しゅうお願いします」
「へえ、村瀬さんて、先生とおんなじとこで産まれはったんやぁ」
「なんや、飛鳥ちゃん、知らんかったんかいな。村瀬はん、ちょっと方言出したりぃ。確か、何々やらしてもらいましょうわい、とかて云うんやんなあ」
「一杯飲ましてもらいましょうわい・・、いや、いや、同郷いうても違う街ですわ。せやけど、先生みてたら、なんや、懐かしなあ」
「おっ、先生、ほら、オーナーママさんのお出ましですわ」
「おっと、ほな、私は仕事に戻りますよって、先生、ごゆっくり」
「はあ、有り難うございますぅ」
「そいうや、もう道で会わはった、云うてたけど、せっかくやし、ちょっとだけ呼んできますわ」
「いえ、そんな・・」
「よろしがな、そや、先生、本や、まだ持ってはりますか」
「はい」
 いくら北新地に慣れっことはいえ、まったく会長には、そつ、というものがない。折りにつけ、チラッ、と腕時計をみながら周囲をも観察しているらしく、一分一秒をもムダにしないのである。

(おっとろしい人やなあ・・、そういや、今晩のスケジュールも分刻みでっせ、て云うてたわなあ。まるで、ワイ、売れっ子芸能人になったみたい。うふっ、ホンマに夢の世界やぁ。こうなったら、もう、ぜぇんぶ、お任せしよ。)

などと、あらためて思うまでもなく、はなっから全部お任せなのである。ようは山猿、北新地に超一流の高級クラブにても、すでに舞い上がってしまっているのだった。
「先生、さっきのオーナーママさんも、すごいお人やけど、この店には、もう一つ、すごいことがおますねんで」
 と云いながら会長は、カウンターのほうを見てみなはれやぁ、と眼鏡の奥で山猿をうながしている。
 はたして、山猿は見た。
「あの子、あの着物着た子ぉ、じつは北新地クイーンですねん」

(クイーンいうたら、確かイギリスのロックバンドでぇ、それが北新地にいてるということはぁ、こりゃ、ありえへんこっちゃわなあ。クイーン、女王様、ムチとローソク・・、ちゃう、ちゃう、これも、ぜったいに、ちゃうっ。ほな、残りはぁ・・、北新地のクイーンっちゅうこっちゃがな。つまりぃ、ようするにぃ、会長さんの云うてはんのはぁ、すなわち北新地のぉ、女王様かいっ?!)

まさしく別嬪さん、であった。その別嬪さんは、しかし、とおく離れたカウンターで、おそらく同伴したのであろうお客と話し込んでいる。あるいは会長さんがホンマもんの天政会テッペンでもないかぎり、ごちゃごちゃぬかさんとこっちこい云うとるんで!などというようなことがあるワケもなく・・・

(遠距離恋愛より、やっぱ近くの天女と観音さんよね〜。)

どっちにしたって高嶺の花だということすら、もう忘れてしまっている山猿なのである。
 こいつぅ、まったく、死ぬまで山猿につけて利くクスリなどないであろうことも、すでに忘れてしまっていた。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 06:23 | Comment(0) | 実録 華も実もある北新地物語

2010年05月30日

こうして有り難く思いだしつつ書いていても、キーボードを打つ指が震えているのは・・、決して病のせいなどではないのです。合掌

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北新地物語

(デリシャスッ!!違うたあ、ゴージャスッ!!かつデラックスゥゥゥッ!!!ワァイ、お父ちゃん、もとい、会長さぁん、置いていかんといてえぇぇ、ちょっと待ってちょうだいかぁ。)

 すでに座るべきテーブルまで決まっているらしく、ゆったりとしているクセに、やたらと早い歩みをすすめる会長を追いかけて、とうとう現世の極楽へと、その未曾有にして巨なる一歩を踏み出した山猿なのである。
 クタクタァァ・・、へたり込んでしまいそうであった。
もちろん、腰が抜けたのでもなければ、ついついヒザッ小僧が笑ったワケでもない。いざ、しっかと踏みしめるべき床【こういう場では、フロアと云うべきか】が、それこそフカフカの絨毯を敷きつめたようであり、まさに雲の上を歩くような感じだったためであった。

 が、しかし、なのである。ここで腰くだけになってしまっては、それこそ御接待くださった会長の大顔にドロを塗ってしまうではないか。
 ドッコイショォォ・・、何とかもちこたえた山猿は、キョロキョロと、すでに腰をおろそうとしている会長を見つけるまでもなく、同伴!もういっぺん云うとこう、同伴!!してくれている桔梗さんのリードで、密かに自慢なポニーテールも揺れていた。

「さあ、先生、どうぞ、奥で、ゆったり、くつろいどくなはれ」
 超一流高級クラブ吉川の、まさに大奥とも云うていい壁際の席をすすめられ、たとえば大手一流百貨店の家具売り場でしか見かけたことなく、むろん産まれていっぺんも腰掛けたこともない高級ソファーに、いかにも軽そうな腰をおろした山猿である。
 ヘタァァ、そのまま沈み込んでしまいそうなソファーであった。すかさず桔梗さんが横に座ってくれなければ、そのままソファーに溺れて、浮かびあがることもできなかったに違いない。

(やったあぁぁっ、とうとう、やったがなあぁぁ、若い頃から夢にみてた、あこがれの北新地で、しかも屈指の超一流クラブに、ワイは、今まさに腰をおろしたのやでえぇぇ。しかも、上田正樹さんの歌のなかやったら・・、ホステスのネエちゃんに、面と向かって、アンタのくるとこやおまへんでっ、とか云われるとこやけど、しかぁしっ、ワイには会長さんがついてくれてはる、ああっ、会長さんっ、ホンマに有り難うございますうぅぅぅぅっ。合掌)

「ごめんなさいね、わたし、ちょっと荷物置いてくるわ。先生、どうぞ、ごゆっくりなさってくださいね。桔梗ちゃん、お作りしたげて、先生、ロックが好きやねんて、ねえ、先生」

 はいっ、自分はっ、ロックでもブルースでもっ、いっそ演歌でもっ、もう何でも好きでありますっ!なんやったら『大阪しぐれ』でもやらしてもらいましょか?!

とでも云いながら、きょーつけぇ、して敬礼すべき千春ママさんは、ひとまず自分の荷物を置くため、フワァリ、空を泳ぐ天女そのままに離れていった。山猿が、水割りよりもロックを好むことは、じっさい、あし田にて歓談するうち、さりげなくママさんの調書にメモられていたらしい。

 しかも、じつは入店した時、すでに会長が好みのテーブルには、いかにも高そうなボトルやら水やらグラスやらがセッティングされていたのである。
「先生、これが先生のボトルですわ。桔梗ちゃん、見せたげて・・、ほら、ちゃんと先生のフルネームが貼ったぁるでしょ」
「うわあ・・、ホンマにもう、会長さん、有り難うございますぅ」
 あらためて云うまでもないが、これは、先だって遊びにきた会長が、わざわざ山猿の名前でキープしてくれていたものである。

 先生、このとおり、しっかり入れさせてもらいましたでえ。

と、そのボトルを撮った写メールを受信した時には・・・

(有り難うございます・・、けど・・、きっと死ぬまで飲めませんわ。どうぞ、会長さんが飲んでしもとくれやす・・。)

「ほな、先生、開けてください、お作りしますよって」
 その知性あふれる眼をかがやせた桔梗さんが、うずうず、頬笑んでいる。
「ええっ、いやっ、どうぞ、会長さんが開けてくださいよぉ」
 すると、使い終えたおしぼりをテーブルに放った会長が、ふと眼を鋭く据えて・・・
「先生、まだまだ、今晩がスタート、これからですわ。せやから、もう御礼やとかお気遣いやとかは、これっきりにしとくなはれや。僕はねえ、先生を見込んで、こないさしてもろてるんですから。ほら、過ぎたるは何とやらって云いますやんか、さあ、どうぞ」
「・・・はいっ、ほなっ、もう遠慮なく御世話になりますぅっ」
 云いつつ、ボトルを頂戴した山猿は、キリリッ、その封印を切った。それを横から、さり気なく受け取った桔梗さんは、茶道も心得てますねやわあ、ってな手並みで会長や山猿の飲むべき酒をととのえてゆく。
 もう、それをながめているだけで・・・

(めっちゃ偉いさんになった気分やぁぁ、いや、ホンマ、これが北新地かあ。これがっ、ほんまもんのホステスさんかあ・・。)

「ようこそ、おいでくださいました、会長さん、ありがとうございますぅ、ようやっと先生に会わしてもろてぇ、嬉しいわあ。菅先生、初めまして、すず、いいます。どうぞ、よろしくぅ」
 シャキッ、と着物を着付けた観音さんが笑いながら寄ってきた。
「会長さん、今晩は、もう、すずちゃん、抜け駆けやわ、わたしも先生のとなりに座りたいのに、菅先生、飛鳥ですぅ」
 バシイッ、と薄いドレス【ワンピースやら何やら、服の名称なんか知らないんです】を着こなした天女が、それこそ朗らかに寄ってきた。
「どうも、御世話になっております、菅と申します」
 云いつつ立ち上がっては、小さく前へならえ、して一礼したいところだが、もはや腰のとろけかけている山猿なのである。

「失礼いたします」
 黒服の兄ちゃんが礼儀正しく、おつまみを運んできた時には、きょーつけぇ、したほうがよかったかなあ・・、なんて想う間もあたえず、ついに山猿の半生に最も華麗かつ豪華絢爛であろう乾杯が、そりゃあ、もう賑々しくも華やかに執り行われたものであった。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 16:36 | Comment(0) | 実録 華も実もある北新地物語

ああ、とうとう、お迎えがやってきました。生きながらの即身成仏する時が、ついに訪れたのであります。まこと小さな男が・・、もうええっ、はよアップせんかいっ。合掌

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北新地物語

「先生、そない、あたふた、せんかて吉川は、すぐそこですわ」
 今、いよいよ踏み込まんとする捜査課の若手刑事、いや、いっそう気合いをみなぎらせてインカムを調整している黒服の兄ちゃんや、私らかて同伴ですねんで、とでも云いたげに腕組んで、ベタアァ・・、まるで運動会で息ピッタリな二人三脚するように行き交うカップルたちに目をうばわれつつ、そんなん見飽きてますわ、とて、いっそう妖しい輝きを放ちおりますネオンの群に酔いしれながら、はぐれたら絶体絶命やでぇ・・、会長と千春ママさんを追いかける山猿、もとい、北新地の高杉晋作であった。

「先生、ここですわ、クラブ吉川、いよいよ本番でっせ」
 ホワアァン、と妖艶でありながらも上品な灯りに浮かぶ入口の前には、これ一個でナンボすんねやろなぁ・・、という花束がズラリと飾られており、インカムを装着した黒服の兄ちゃんらが・・・
「いらっしゃいませ」
 と一斉にシンクロしては、シャキィッ!と正した姿勢で深々と一礼している。千春ママさんと腕を組み、そんな黒服の兄ちゃんたちには、そこにおったんかぁ、という素振りすら見せずしてふり返った会長なら、もうすっかり天政会のテッペンなのだった。
「桔梗ちゃん、待たせてもぉたかなあ、ほら、同伴してくれはる、菅先生やで、先生、桔梗ちゃんですわ、可愛がったってくださいね」

(可愛がっったっててぇ・・、はい、はい、よっしゃ、よっしゃ、買うたる、買うたる、お父ちゃんが何でも買うたるのやさかい、桔梗、お前も、お父ちゃんの云うこと、何でもきいて、ええ子にせんならんねやでぇ。)

 などというようなことを想う山猿の余裕など、もはや黒服の兄ちゃんたちと会長が制圧しきっている。
 さらには間髪いれずして、ホンワカァ、とした灯りの下で頬笑む桔梗さんが、さながら雲の上の坂を歩くような感じで足音も立てずに近づくや・・・
「先生、桔梗です、ほんまに会いたかったんですよ、もう、この日をどんなに待ってたことか・・、今夜はヨロシクお願いしますぅ」
 いや、なるほど、たとえば剣術でいえば、居合い、それも抜き打ち、というものであった。
しかも、まこと唐突なる、辻斬りではないかよ。
 いかに高杉君とて、これには一溜まりもなかろう。
「はっ、高杉っ、いやっ、菅ですっ、なにぶん初めてでっ、まったく不慣れな者でありますっ、どうぞっ、宜しくお願いしますっ」
 哀れなるかな高杉君、いや、山猿め・・、いわゆる真正面から、バッサリ、その斬口も憎らしいほどの鮮やかなる袈裟斬りであった。

 もう入口で息も絶え絶えなる山猿を、その、いたいけなる無念の喜悦なんぞお構いなしに、さあどぉぞ、とて会長とママさんは中へ、この世の極楽世界へと入ってゆく。
 たちまち山猿が往生する極楽浄土すなわち北新地屈指の超高級クラブ吉川は、地下一階であった。

(ヘエエェッ、いままで天国とか極楽て、雲の上にあるんやと想うてたわぁ・・、ワイの大好きなレッドツェッペリンの『天国への階段』て、上っていくもんやと想てたでぇ・・、けど、やっぱし、北新地やのう・・、ここでは降りていっても天国なんやなぁぁ。)

「いらっしゃいませえ、お待ちしておりましたあ」
 いよいよ、お店のドアが開かれた。

 ああ、嗚呼、ああぁぁ、いっそお金持ちの人類にとっては小さな一歩かも知れない、が、この山猿にとっては一生涯に空前絶後であろう巨大な一歩なのである。

 こらえても、なお、こらえても湧き上がる震えは、決して恐れおののくがゆえのものではなく、いっそ感涙にむせびたいほどの感謝感激による・・、ああっ、まさに至高の歓喜なのだった。

(できることなら、このまま、そっと、このまま、ここで眠るように死んでゆきたいぃぃぃ。)

 そんな山猿の狂おしい想いを、あっさりと覚ましたのは、お店に入ったところ、ちょっとした仕切りの向こうで頬笑む観音さんである。
「あのう、お荷物どうぞ、お預かりいたします」
「えっ、あっ、いやっ、あのっ、ちょっと出したいモンがはいってますんでっ、そのっ・・、持って入ってかまいませんかあぁ」
 はいどうぞ・・、と観音さんが微笑する、わずか一秒たらずが、それこそ三十秒ほどの記憶として、いまも山猿の脳裏にクッキリハッキリと刻まれているのだが、それは決して、あし田にて、早々と自信を喪失してしまったけれど、ぜったいに使い古しのズタボロではない新品ショルダーバッグが恥ずかしかったせいでは・・、ないぞ。

 なにはともあれ、ここで立ちすくんでいるワケにはいかない。まったく自家の超豪華リビングへでも入ってゆくような会長を、まるで無邪気にまとわりつく子供みたいに追っかける山猿なのだった。
 そこには、すでにバッチリと装うたる天女と観世音菩薩が、山猿ちゃん待ってましたよ〜、てな雰囲気を満ちあふれさせて集い、あとは山猿の即身成仏を、至れり尽くせりに優しく手伝うてくださるばかりなのである・・。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 12:15 | Comment(0) | 実録 華も実もある北新地物語

2010年05月29日

さあ、北新地の夜が、この世の極楽世界が、僕を待っているんです。まこと小さな男が、ついに、その開花期を迎えようとしている・・。合掌

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北新地物語

(あー、ほんまに美味かったあ。こんな御馳走、もう、二度と、死ぬまで食われへんしなあ。はぁいっ、センセー、ほな本番いきまぁすっ、てな感じで、もっぺん最初から出してくれへんかなあ。)

 ほな、お気に召したんを、お代わりしたらよろしがな。

などと、もし会長さんが誘ってくれたとしても、じつは献立に書いてある焼き物の、漢字が読めないのである。
かんじんの料理名が分からないからには、注文のしようもないのだった・・。
「今晩は、お忙しいて聞いてます。そろそろ、お食事にしましょか?」
「せやな、店の前に先生の女の子を待たしたぁるし、遅れたら可哀想やしなあ」

(先生の女の子・・、センセーの女の子ぉ・・、いまの場合、先生=ワイ、したがってワイの女の子ぉ。ああ、会長さん、もういっぺん云うてくれませんかあ、先生の女の子ぉぉぉ、て・・。)

「先生・・、先生、どうですか?」
「えっ?あっ・・、はいっ、いただきますぅ」
 やっと応えながら献立をみれば、釜炊き毛がにご飯、とある。決して、毛がにごメシ、ではない。
 毛がに、ご飯、なのである。
云わでものことだが、ここは北新地の超一流割烹。
 ということは、たとえ間違っても、そこいらのスーパーとかコンビニにて一山なんぼで売っている、毛がに風味のカマボコ、などであるはずもない。
 とはいえ、この時の山猿には、釜炊き、が、毛がに、に掛かっているのか、はたまた、ご飯、のほうに掛けるのが正解なのか・・、よく分からないのだった。

「これが、また絶品なんですわ、仰山ありますよって、お代わりもできますしな、ほら、先生、この漬けモン、これもいけますよ」
「ほんま、上手に漬けてはるわぁ、美味しい、ねえ、先生」
「いやあ、ほんまですねえ、僕は味噌汁も大好物なんで、この赤だしが、もう何とも云えませんねえ」

(おっと、アカン、アカン、うっかりしたこと云うたら、お代わり欲しがってるように聞こえるがな。もう黙って食うとこっ。)

「先生、ご飯、お代わりどうですか?」
「いいえぇ、もう、お腹もいっぱい、胸いっぱいですよ」
 むろん、精一杯に見栄を張ったウソである。
じつは山猿の胃袋は、よう食べるなあ〜お前ぇ、と云われる人の二倍半くらいは余裕なのである。じっさい、故郷で御世話になりっぱなしのお寺さんでも・・、なんぼ食うてもええけど腹も身のうちやぞ、などと呆れられているほどで、たちまち、いま目の前にある釜炊き毛がにご飯なら・・、もう一釜炊いてちょうだいかあ、とお願いしたほどに、たまらなく美味い。
 が、しかし、ここは北新地の高級割烹、ここでググッとガマンしないで、どこでガマンするべきか・・。

「ほな、大将、残ったんを、お握りにして包んでんか。なあ、ママ、お店の子ぉらにお土産や」
「ほんまぁ、みんな、悦びますわ、ここの炊き込み御飯、大好物ですもん」
「ああ、持って帰ったり。余しても、しゃあないしなあ、大将」
「はい、すぐですよって、まあ、ゆっくりデザートでも召し上がっててください」
 お持ち帰りの器、用意して・・、などと大将が云う前に、心得たりぃ、とて舞いを舞うように、さあっ、と奥に入った女将さんが、すでに出して並べているのだった。
「もうすぐ、お店開けるから、女の子らが食べやすいように、小さく握っといてね」
「はい」
 心得てますぅ・・、日本料理界にも屈指の達人でありながらサーファーでもある大将が手ずから握る、釜炊き毛がにご飯のお握りを、どうにかして故郷にまで持って帰れないものか、を思案していた山猿は、はた、と気づいて愕然とした。

 じつは、あし田では、その日の素材と出汁と米が、最も美味しいハーモニーを奏でる分量で炊きあげているのである。それは、たとえば鄙びた温泉旅館などで目玉の一品となっている、かの一人前用の小釜で、下のロウソクが消えたら炊きあがりですよ〜、という釜飯などではなく、いっぺんに仰山炊くほど美味しいねんでぇ、というような大ざっぱなものでもない。

 予約したお客の人数×当日イチ押し素材×最も美味しいんやでっ!!

上記の公式によって求められた答えに、お客のアフタースケジュールを加算してはじき出された分量を炊いているのだった。
 しかも、である。残ったご飯の総量を一見しただけで、そのお客が要求するであろう大きさ、あるいは個数を考慮しては、まったくムダのないベストサイズに握ってゆくのである。さらに云い添えたなら・・・
 これだけ複雑なことを一瞬にして割り出し、その手を働かせながら、お客に愛想することをもおろそかにせずして、自らの手もとなんぞ見てもいない・・、などと山猿が、これまた美味しいデザートに舌鼓うちながら驚嘆しおるうちに完遂してしまった余裕綽々なのだった。

「今日は、充分なお持て成しもできずに、すみませんでした。どうぞ、懲りずに、また、是非とも寄ってやってくださいね」
「本当に有り難うございましたぁ、御本、読ましてもらいますぅ」

(高島礼子×黒木瞳)+たそがれ清兵衛に出演している時の宮沢りえ

この公式にて求められた答えの、さらに二十五乗して、必ず−12を忘れない。

そんな女将さんが満面の笑顔にて見送られた山猿が、あし田、から一歩踏み出した時のことである。

 山猿ちゃぁん、よ〜こそぉ、いらっしゃぁい、これが北新地のホンマの姿よ〜、ホラ、ホラァ、今夜はぜぇんぶ見せてあげるわよぉぉぉぉ、どぉ、お気に召したかしらぁぁぁぁぁぁ・・。

とて、いよいよ夜の化粧に磨きをかけた北新地のネオンの群が、すでに心地よく酔うている山猿を、いっそう妖艶がつ豪華絢爛に幻惑しているのだった。
 道案内をかねて先をゆく会長と千春ママさんの後ろ姿を見失っては、二度とふたたび帰郷は叶わぬであろう。

(腹ぁ切るんは、いっぺんでええ。ほれ、北新地ぃ、そがあにオリ【俺】の首が欲しいならくれちゃるけえ、いっそ一思いに落としちゃれ、のう、北新地よう・・。)

 うる覚えの長州弁でネオンを見上げる山猿、もとい、高杉晋作には、迷子になるのを心配してくれる千春ママさんが・・・
「先生、こっちですよぉ」
「はぁぁい、よろしくお願いしますぅ」
 真新しいために、まだ足に馴染んではいない雪駄を、もう必要以上に北新地のアスファルトに擦りつけながら、そそくさ、と追いつこうとする山猿であった。

(急がにゃならんのじゃけえ、なんせ、おうのを、オリの女を待たせちょるけえのう・・。)

 こうして山猿、いや、いや、北新地の高杉晋作は、北新地でも指折りの超高級クラブ吉川めざして、ひたすら歩をすすめるのだった。しかし・・、足が痛い・・。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 20:49 | Comment(0) | 実録 華も実もある北新地物語

これからは、ちゃんと勉強しとこ・・、と想っても、そんなところに縁のある僕ではありません。もしも、万が一、また再訪叶ったとしても、きっと、こんなもんでしょう。合掌

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北新地物語

「いかがですか、八海山。今日の献立には、一番合うと思うたんですけど。もし、お口に合わんようやったら、ほかの」
「いえっ、ほんまっ、美味しいですぅ」
 ほらね、大将の言ノ葉をさえぎってしまうほど、すっかりいい気分の山猿なのだった。
 しかも、お隣の千春ママさんがお酌してくれるタイミングは、山猿を急かしもせず、かといって、また注いで欲しいなあ〜、というあたりを優しくくすぐって遅すぎもせず・・、あれよあれよという間に、残りのビールを飲み干した上に、冷酒もう一つね〜、とまでうち解けてしまっているではないかよ。

(美味いのう。気分はすっかり高杉君、こんで横に、おうのさん、でもやってきた日にゃあ・・。せや、せや、これからやがな、確か会長さん、つぎ行くお店の前で、ワイの同伴待ち合わせやて云うてはったがな。もう、ええわ、どうせ死ぬんやったら北新地で死にたいのぉ、新撰組でも何でも出てこんかいっ、どっからでもかかってこいっ、この晋作を斬れるもんなら、みごと斬ってみいっ。)

「ほんま、先生、お強いわあ」
「いえ、いえぇ、そんなことぉ」
 まだまだこれからでっせぇぇぇ・・、とて、また一杯飲んだ。
「なあ、大将、すまんけど、あれ、あれをこさえてくれんか」
「はい、少々お待ちを」
 会長の、あれ、に対して途惑うことなく、しかも、揺るぎない自信満々で応じる大将なのである。使用しすぎなのは分かっちゃいるけど・・、さすが、というほかに言葉を知らない山猿であった。

  どこやらの誰それは、何だったんじゃちゅうねや。
   ほうよ、わたしも聞いた時にゃあ、たまげたわね。

 これは、うちの両親が時おりの会話なのである。
すぐ横で聞いていた山猿にもチンプンカンプンなのだから、読んでくださってる皆さんには、もっとチンプンカンプンではなかろうか、とも想う。
 だが、しかし、長年を連れ添うたる者らならではの阿吽であろうし、あるいは世に古びたればこそ習得できる摩訶不思議なのかも知れない。
 まあ、どうであれ、間を置かずして会長の前に出来上がったのは、和風プリン?!いや、見るからに柔らかくて美味しそうなる出汁巻タマゴであった。
 もちろん、大将っ、正解っ、でもある。

「これ、これですわ、先生、これぞ日本一の出汁巻ですわ。私はねえ、これが食いとおて、ここにかよてるようなもんですねん。さあ、食うてみなはれ・・、うん、今晩も、また、ええ出来や」
「いっつも悦んで褒めてもろうて、ありがとうございます」
「ささ、先生もお一つ」
「いただきます・・・、うーん、ほんまに美味しいなあ。口ん中でとけるような柔らかさと・・、うーん、ええ味付けですねえ」
 とうとう、いっぱしの食通に成り上がってしまった山猿には、もう何一つとして怖れるものはない。
 つづいて出された椀物を、じっさい、会長や千春ママさんよりも早くたいらげてしまっている。
「いや、このミンク鯨も柔らこうて、本皮、さえずり、赤身、それに人参と牛蒡が、よう合うてますねえ。そこへ芹の風味と、胡椒で、ピシッ、と締めてるあたり、さすがやなあ」
 最初に云ったミンク鯨も知らないクセに、しかも、ただ眼前の献立を棒読みしただけなのだが、とうとう山猿は勢いづいてしまったもので、ここまできたら、もう誰にも止められないのである。
 さも粋人を気どっては、ちょっと、カウンターの向こうで息の合った演舞でもみせるような若い衆の手もとを見やったりもした。

「先生、さすがやなあ」
 会長は、さも惚れ惚れしたような口調で云うた、が、何がさすがなのかも、じつは分かっていない山猿なのだった。
「えっ」
「ここに仕切りをこさえなんだんが、じつは大将の心意気ですわ。こうしてると、ほら、先生の見たとおり、料理してるもんの、すべてが見えるでしょ。隠してしまうと、人間、ついつい甘え心が出てしもて、知らず知らず仕事がざつになってまう。それで慣れてしまうと、もうあかん、育てへんのですわなあ」
 しみじみ、自分の一言一句を噛みしめるように云う会長の横で、なるほどぉ、と聞き入るフリをしながら山猿の頭はフル回転・・。
「いやあ、あらためて感服しましたぁ」
 と、云うただけでも大冒険なのに、その若い衆のうしろで見守るようにしていた大将にむかって、さも悠然と頓首して見せたものであった。むろん大将は、いかにもサーファーらしくさわやかに、満面の笑みもて返してくれた。

 が、その胸中を、あらためて想いめぐらす勇気は・・、もう無いぞ。

「やっぱり、目のつけどころが違うわあ」
 千春ママさんは、ほろほろ、笑いながら・・
「さっ、どうぞ」
 その白くてキメ細かな指先で、冷酒の入ったガラスの徳利【正式名称を、山猿はしらない】をつまみ上げ、また注いでくれた。
「造りです、甘カレイは、ポン酢で召し上がってみて下さい」

(ということはぁ・・、よこわ、っちゅうんと鳥貝は、ああ、なるほど、会長さんがやってるとおり食うたらえんや・・。)

 こうなってしまえば、それこそ何でも親の真似をしたがる子供のようなものであったろう。
 が、唯一、ドンガラガッシャンガッシャァン、という最悪の粗相だけはしないまま、炊合わせ、そして焼き物とつづく極上日本料理の数々を、その腹に、生まれて初めて納めた山猿なのである。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 16:31 | Comment(0) | 実録 華も実もある北新地物語

戻ってきました、あこがれの北新地。まるで夢のような極楽世界の幕が、ついに切っておとされようとしてますよ。ああ、ほんまに、生きてるうちに、また戻りたい。合掌

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北新地物語

 云わでもながら、ほかのお客さんも大勢いる。
しかし、まったく山猿の眼中にはなかったのである。
 なにせ、ついに入店した刹那より今まで、いかにも超一流割烹らしく落ち着いていながら高級感に満ちた店内、そのなかで日本料理の達人でありながらサーファーでもある大将、やる気満々の若い衆、そのままで『四十七人の刺客』とかで主演女優がつとまるに違いないくせにサーファーガールの女将さん。
 それらに圧しも圧されずして、どしっ、と構えた会長さん、さらに何よりは、まったく使い古しではない新品でありながらも簡単にヒモのとれてしまったみすぼらしいバッグ・・。
 これだけで、もう充分に山猿の精神的許容範囲を超越してしまっていたのだった。

 そんな哀れな山猿を見かねたかのように、ふわり、舞い降りた天女のような千春ママさんに頂戴した龍馬扇による心地よい風が、そよそよ、と山猿の息を吹きかえしては、もはや燃え尽きんとする灯火にも似た一命を、かろうじて、とりとめてくれたものである。 

 が、先天性お調子者である山猿ならでは、もうキント雲に乗って空を飛ぶ孫悟空にも化けてしまっている。
「ほな、まずは前菜から召し上がってみてください」
 手際よく並べられたそれら六品・・、食べるなんてもったいないことせずに、このまま神棚や仏壇に御供したなら、どれほど神仏や御先祖様方がお悦びになるであろう。
 もともと、こういう席での絶品一つに対する褒め言葉なんぞ知らない山猿の胸中に・・・

(ついに本番やでえ、あわてるなよぉ、のぉの助ぇ。ええかぁ、まず、ぜったいに知ったかぶりだけは厳禁やぞぉぉ、ほんで、まずは慣れてる会長さんや千春ママさんのすること、よぉ観てなぁぁぁ、ほてから、さも分かってますよ〜っちゅう感じで食うんやぞぉぉぉぉ、ええなぁぁぁ、どない間違うても、先に手ぇ出したらアカンぞぉぉぉぉぉ。あとなぁぁぁ、ここが重要ポイントやでぇぇぇ、大将や女将さんの様子を見逃すなやぁぁぁ、それがよう分からんかった時には、心配せんかて、若い衆が頼りやでぇぇぇぇぇ。)

そんな有り難い声が響いたのは、ついこの間、故郷の山道を歩いていた足元に見つけたクモをふみ殺さず助けてやったご褒美とでも想うほかあるまい。
 山猿は、その横目で会長と千春ママさんが箸を持ちあげたのを確認してから、自らも、やや震える手で箸をとった。

(しっかりせえよ、のぉの助、手ぇ震えてるんがバレた日にゃあ、本日終了〜っ、とても北新地に屈指の超一流クラブになんか入らしてくれんぞっ、ええなっ、男の子やっ、しゃんとせえっ。)

 この声なき声は、先ほどのとは違って、山猿が内心で自らを叱咤激励したものであった。ともあれ、そんな山猿の葛藤などはお構いなしに会長と千春ママさんは、それぞれ思い思いに料理を楽しんでいるのである。したがって・・・

(なるほどね、どれから食べてもかまへんのやな、自分の好きなもんから食うてえんや、ほな、いっちゃん好きなモンから・・。)

とはいえ、当然ながら六品ともが山猿には初御目見得なのであり、好きなもの、たって見当もつかなけりゃ、たちまち料理一々の名前すら分からないのだった。
 しかし、さすがは会長さんである。
「おお、この穴子八幡巻き、ようでけたぁるがな、こっちの黒毛和しゃぶサラダも美味いなあ、先生、まあ食べてみなはれ」
 さり気なく云いつつ、自分の通称入りお献立を山猿の前に置いてくれたのだった。こうして、ようやく山猿は、その絶品日本料理の数々を堪能し始めることができた。

 が、まだまだ気がほぐれ切っていない山猿に目ざとく気づいたのは、千春ママさんであった。
「わたし、冷酒もらおかしら・・、先生、おビールですか?」
「えっ、あっ、そろそろ僕も、お酒いただきます」
 いわゆる気付け薬なのである、こういう場では、いっそ早く酔ってしまったほうが楽なのであり、そうしたことを何気なく気遣ってくれるなんて、うーん、なるほどぉ、超一流クラブのママさん、おそれ多くもかしこくも・・、さすがは北新地おそるべし、なのである。

 こうしてママさんのお酌で一杯、二杯とやるうちに、すっかり気分は幕末の志士。龍馬扇で、ゆったり、自らをあおいでみれば、とうとう最も山猿が敬愛しきりの、高杉晋作、にまでのぼせ上がってしまっている。

「まあ、先生、お強いんですねえ」
「いや、いや、そんなことないですよ」
 云いつつ、さっ、と作務衣のえりもとを直してみたりし、かつ泰然として冷酒をあおり、ふと箸を働かせては、細魚小袖寿しを食し・・、いよいよ、そのアホさ加減のブレーキもゆるんでゆくばかりの山猿なのである。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 13:59 | Comment(0) | 実録 華も実もある北新地物語

ああ、ちょうど一週間前の今ごろには、まだ極楽世界におったわなあ・・、ほんまに夢見心地でよかったなあ・・、ありがとうございますうぅぅぅぅ・・・。合掌

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北新地物語

          二

 どうであれ、会長には直にお会いし、きっちりオトシマエをつけねばならぬ山猿は、マチ子さんにいただいた助言を頼りに、もちろん会長の多大なる御尽力によって、ふたたび一路、あこがれの北新地へ・・、そこに高級割烹で在る、あし田、にたどり着いた。
「ええ波追いかけて、暇をみつけては、日本各地、ほうぼう走りまわりよるんですわ。確か、四国にも行くよなあ、大将」
「はい、高知沖は、けっこうええ波きよるんですよ。やっぱ、太平洋っていうだけのこと、ありますねえ」
「はあ、そうなんですかあ」
 本当に大将がサーファーであることを得心しながら・・・

(えっ、待てよ、ほな、この女将さんは、ようするに・・、すなわち、サーファーガールっちゅうことかあ?!)

(高島礼子×黒木瞳)+たそがれ清兵衛に出演してた時の宮沢りえ

上記公式によって求められた答えを、さらに五乗する。

その答えからマイナス8せねばならない・・、という肝心かつ重要な推定年齢計算を忘れていたため、じっさいに女将さんを知っている方々には、さぞ御不満であったろう。
 また、女将さんを知らない方々には、その美貌が充分には想像できなかったであろうことをも、重ねて、あらためて陳謝しきりの山猿なのである。

 そんな山猿の苦境を救うてくれるかのごとく・・・
「いらっしゃい、お待ちかねですよ」
「ごめんなさい、すっかり遅うなってしもたあ」
 ついに千春ママさんのご到着によって、ようやく息を入れなおすことができた山猿でもあった。もう北新地には常連である会長と、こなた御当地屈指の超高級クラブ吉川の千春ママさんは、いわゆるお馴染みさんであり、じっさい、今宵はお二人が同伴ということだったのである。
 いまだ同伴というもののシステム詳細は分からねど、ざっと同伴の意味くらいは分かりかけている山猿であった。
 また、あし田にて、あくまで女将さんはお店の方だが、千春ママさんはお客さん、すなわち会長や山猿と同様の立場であろう。

(あー、よかった、よかった。会長さんは、男にゃあ愛想無しが本性らしいけど、こうして天女はんが、すぐそばに舞い降りてくれたかぎりには、もう少々のことで、むっ、としたりせえへんやろ。)

「何しとってん、先生、えらい心配してはったで」
「ごめんなさいね、出掛ける前にお店でバタバタしてて、それに、今日は金曜日やん、えらい渋滞でタクシー動かへんし、デパートも、えらい混んでてん」

(絶頂期の大原麗子+若き日の松原智恵子)×二百三高地に出演した時の夏目雅子

上記の公式によって求められた答えを、さらに三乗したのち、円熟味+7=千春ママさん。

 なるほど、さすがは北新地で超高級クラブのうちにママさんと呼ばわれおる女性なのだった。
 そんなママさんが・・・
「先生、お気に召すかどうか、ちょっと心配ですねんけど、わたしの目ぇには、先生にようお似合いやと想うて・・」
 どうぞ受けとっておくれやすぅ・・・、いや、じっさいには京都弁などではないのだが、その華麗きわまりなき着物姿と、まるで能でも一さし舞うような仕草によって、山猿の耳には音なき声が響いていたものであった。
 そう云いながら差し出された紙袋よりも、それを持つ指先にこそ、山猿の熱い視線は注がれていたであろう。白魚のような・・、という慣用句などは知っている。が、フン、とすれば鼻息のかかるほどの間近にそれを観た驚きは、どうであろう。
「ああっ、すみませぇん、わざわざ、有り難うございますぅ」
 やや上擦った声もて頂戴した紙袋は、いかにも上等なものであり、その内に、きっちり包装されて細長い何をか・・・
「すみません、いま、開けさしてもろてええですか」
 へえ、どうぞ、観とくれやすぅぅぅ・・。
じっさいのママさんは、その天女みたいな美貌を笑みくずして、軽くうなずいただけであることは、やはり正直に云うておきたい。

「わあ、扇子ですねえ、ええ色やあ」
「お気に召しましたやろか」
「はい、有り難うございます、大事に使わしてもらいます」
「龍馬扇ていうんですて、名付けも先生にピッタリや思うて」

(ちゃちゃちゃあっ、こりゃあ、げにまっこと、たまるかあっ。もう、この五尺八寸の身体ぁ、どうでもしてつかあさいぃぃ・・。)

 すっかり坂本龍馬に成りきった山猿のことである、もう世に怖れるものなんぞあるまい・・、とて、今まで躊躇していたことをも思い切ってやってのけた。
 ついに、自分の名前入りお献立を折りたたみ、それを先ほど頂戴した本にはさんでは・・・
「つい忘れたら、もう一大事ですきに」
 うる覚えの土佐弁で云うなり、すく、と立ち上がっては、チャックのヒモがとれてしまったバッグに、ぜんぶ仕舞いこんだのだった。なにしろ、すでに成りきっているのだから、もはや会長やママさん、大将や女将さんや若い衆、それに、ほかのお客たちから、どういう目で観られているのか・・、よく分からないのである。

「ほな、大将、ぼちぼち出してもらおか」
「はい」
 いよいよ料理が出される運びとなった、が、お献立の書かれた高級和紙を、ちゃっちゃと仕舞い込んでしまったことが、どういうことであるのかを、まだ、この時の山猿には知るよしもない・・。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 02:44 | Comment(0) | 実録 華も実もある北新地物語

2010年05月28日

そろそろ、北新地帰り一週間記念ディナーショーの楽屋入りの時間です。その前に、どうにか間に合ったアップ・・、いかがでしょうか?!合掌

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北新地物語

「なあ、のぉの助ぇ、この、まえな、っちゅうんは何やあ」
 酔っぱらったワンコが指さすところを見た山猿は、おかげさまで酔いがさめる思いであった。
 ただ、ワンコが本物のアホではないことだけは、どうぞ北新地の皆さん、誤解しないでやっていただきたい。
 ちゃんと普通高校を卒業したヤツであり、しかし、もとより漢字に弱い者が、すでに酩酊状態におちいっているだけのことなのである。
「そりゃ、前菜、ぜんさい、と読むんじゃ、ボケエ」
「なあ、のぉちゃん、あんた、大阪では、どこ泊まってたん」
 タクラマカン砂漠でもコンパス不要で通過するであろうマチ子さんは、いまだ熱心に携帯に見入っており、こちらに顔も向けない。
「淀屋橋やがな、新大阪から御堂筋線ですぐ近くや」
「そんなん知ってるわ、へえ・・、淀屋橋ねえ」
「もうっ、マチ子さんっ、せっかく、わたしが駆けつけてんのに、ずうっと携帯ばっかしやんっ。もう、みんなで、ハッピバスデー、唄うたんかっ、えっ、えっ、もういっぺん唄おやっ、なあっ」
 じつは山猿は、このイノシシとマチ子さんの間に挟まれており、さっきから閉口しきりなのだった。
 が、このイノシシの一言で、山猿は重大事項を、その酔うた頭に思い出したのである。
「おい、ワンコちゃん、ケーキわい」
 山猿が、マチ子さんのために買ってきていた特注バースデーケーキを、ひとまず店の大型冷蔵庫に保管したまま、みんな、きれいさっぱり忘れてしまい、ただのドンチャン騒ぎしていただけであった。
「あー、そうやったあ、すまん、すまん、わせとったわ」
 ようやく店内高らかに、ハッピーバースデーマチ子さん、が鳴り響き、それによって一時的にしろ酔いがさめた心地の怪物ランドの住人たちは、いわゆる河岸を変えずして、二次会へ突入した。

「マチ子さん、わしらにも見せてくれや、そなに夢中になるほどオモロいんかあ、のう、こらあ、マチ子」
「モー、お前、ほんまにアホやのう。そんなん、自分の携帯で見んかい、スケベ産婦人科の名前で検索したら、すぐに出るぞー」
 よしよし、北新地の皆さんのおかげで、なかなか面白い物語になっているらしい。松っちゃんに助けられたモーも、自分の携帯をいじり始め、それにつられたらしいサッチャンもバッグから携帯を取り出しては、暫し、静寂の時が・・・、流れるわけがなかった。
「なんやのっ、みんなあっ、携帯いじってたら、せっかく駆けつけたわたしがアホみたいやんかあっ、なあっ、なあっ」
 本当はイノシシ、かなりアルコールに弱いらしい。
じっさい、小一年前に初対面の席では、山猿が一時間ほど遅れて到着した時、すでに泥酔状態で眠りこけていたし、そのあと再会した折りにも、ほぼ同タイムでダウンしたのである。
 そんなに弱いなら飲まなきゃいいのに、やはりイノシシだけに学習能力が乏しいのかも知れない。

「おい、センセー、ここに出てくる会長っちゅうんは極道かい」
「モーちゃん、お前も字ぃが読めんのか。ちゃあんと書いたあるやろ、大手企業の会長さんて」
「わしはダマサれへんぞ、ここに仁義なき戦いの小林旭ちゅて書いたあるがな、そななオトロしいもんが、シロウトのわけあるかい」
 じつは、いたいけで純情な山猿に、初めて『仁義なき戦い』を鑑賞するよう強く推薦したのが、このモーちゃんであった。
「えーのう、お前、生まれながらに、菅、の一字がおんなじや」
 ビデオを貸してくれながら云うた真顔を、いまでも山猿は忘れない。云わでもながら本人は菅原文太に憬れているどころか、自分が分身だと思い込んでおり、それは酔うほど確信に近づくらしいのである。
 酔ったモーが、さも広島弁っぽい言葉づかいをしだしたら、できるだけ関わらないほうが無難であり、本当の酒乱でないことだけが、いままで友好関係を保たせている唯一の救いなのである。
「わしゃー、嫁はんとおるより、こんならとの付き合いのほうが長いんじゃけえのう、おおっ、これからも、よろしゅう頼むど」
 モーの云うことにウソはない、怪物ランドの仲間内では早くに結婚したが離婚をくり返し、今の嫁さんが、確か四人めなのである。

「ねえ、のぉちゃん、あんた、どこで会長さんと合流したん」
「淀屋橋駅やがな、なんで、そななこと聞くねん」
「ほな、そっから真っ直ぐ北むいて歩いて、北新地へ行ったん?」
「そうや、見物ついでのそぞろ歩きっちゅうやっちゃ。寄り道なんかするかいな、あこがれの北新地へ一直線やったでえ、なんせ、俺って何でも一途やもんね」
「そうかあ、ほな、やっぱり、おかしいわ、これ」
「何がやねん」
「会長さんの道案内がホンマやったらな、あんたの記憶の中では地図が裏返ってるで。四つ橋筋と御堂筋が、アベコベやんか」
「えっ、うっ、ウソっ、なあ、ウソやろ、マチ子さん」
「ホンマやて、もしも、会長さんのセリフどおりやとしたら、この会長さんの道案内、遠回りもええとこのメチャクチャやもん。まあ、北新地のなかの通りまでは知らんから、よう分からんけどね」
「・・・マジすか」
「あんたの方向音痴、やっぱり、そうとう重症やね」

 さも呆れたように云うマチ子さんよりも、やっかいなのはモーであった。
「何やとおっ、おどれ、わしの連れに恥かかしとるんかっ、おおっ、こんオトシマエ、どうつけてくれるんないっ」
 なるほど、かの映画の中で小林旭と菅原文太は、確か、もともとは五分の兄弟分であった。モーは、すっかり文太さんのつもりなのである。
 どうであれ、本当に、どうにかオトシマエつけねばならなくなった山猿は、その酔うた頭の中で、はじめっから白紙に近い北新地周辺地図を、まずはマチ子さんのいうとおり裏返したり、怪物ランド、いや、千里の天井の薄汚れた蛍光灯に透かしてみたりし、ただし、会長の無愛想な大顔だけは妙に鮮明に浮かんでみえた・・。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 18:39 | Comment(0) | 実録 華も実もある北新地物語