2010年06月21日

梅雨の北新地、まさに、大阪しぐれ、ですね。合掌

ninki-blog-ranking-imgにほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へビジネスブログランキング
↑ブログランキングに参加しています。3つともクリックしていただけると元気100倍です揺れるハート

北新地物語

 そこは、ガラスの城であった。豪奢なる照明が、巧みに計算された配置のガラスと鏡の絶妙な反射効果によって、山猿の目を幻惑しつつ、また、なるほど、城兵らしく行儀のいい黒服兄ちゃんたちが、さも威勢よく出迎えるさまは、秀吉と寧々の入城にもふさわしいのである。
 ただし、雅華さんのほかに、同席してくれる真野さんとライムさんは和服でないあたり、ふとANAクラウンプラザ大阪のロビーすなわち鹿鳴館をも想わせる上品なのだった。

「先生、とりあえず、今回の北新地には最後の店ですわ。吉川から始まって、まあ云うたら、だんだんと若やいできて、ここが一番若うて賑やかな女の子らやな、っちゅう感じでっしゃろ」
「はあ、しかし、雅華さんの着物姿みてたら、年とか分かりませんねえ」
「まあ、そないに老けてみえますかぁ」
 そんな雅華さんのツッコミにも、もはや慌てない山猿なのである。
「いえ、いえ、そういう意味やなくて、よう似合うてはるなあっちゅうことですよ。いや、ホンマ、さすが北新地の女の人たちって、お若いのに、着物の着付けがビシッと出来てはるなあって」

 もはや北新地屈指の超一流高級クラブも四軒めなら、すっかり心地よく酔いもまわっており、じっさい、これくらい出来上がってからが山猿としては本領発揮しやすいのだが、しかし、おそらく浮世の男どもが期待しているであろう、かの公式などを思考することは、すでに不可能でもあった。
 ともかく、みな、いずれ女優さんを目ざしはるんですかぁ、と真面目に想うほどの別嬪さんばかりなのである。また、いくら山猿の本領発揮とて、ここは北新地、すなわち山猿ごときが生きてふたたび遊びにこれるようなところではないかぎり、きわめて慎ましくして、おとなしく座っているほうが、いずれ冥土の土産としても、ついに極上の思い出になるではないかよ・・。

(えーとぉ、あし田の女将さんは、日本一の料理人でありながらサーファーという、つまりは無敵の大将のお嫁さんやから、こりゃ、すでに神棚の奥に鎮座ましますとしてぇ・・、吉川のオーナーママさんやら千春ママさんも別格やしい・・、ほてから、飛鳥さんとぉ、えーと・・。)

 これまで出会わせていただいた天女はんや観音さん方々を想い出しつつ、ぜったいに叶わぬ夢を追いかけようとする山猿って・・、けっこう憎みきれないロクデナシだと思っていただけませんか?!

「えーか、真野ちゃんもライムちゃんも、よー聞きや。野球でな、野菜さんチームと果物さんチームが試合したんや。ほんでな・・」
 すっかりゴキゲンさんである会長は、またもや恒例のクイズを得意絶頂で出題している。が、間違っても、もう聞き飽きましたでぇ、などとは素振りにも出せない山猿としては、さも熱心に参加するほかにないのだった。
 むろん、その次のクイズも分かり切っている。
「ほな、会長さん、ほらぁ、指のヤツゥ」
 自ら左手をひろげて微笑みながら、ホンマに聞きとおまっせぇ、ってな感じでオネダリしたりもするのだった。
「おお、ほな、真野ちゃんもライムちゃんも、ええかぁ。これ、何指や・・、そうそう、お父さん指やんなあ。ほな、これは?」
 と上機嫌な会長のかたわらで如才なく、しかし、微笑ではなく満面の笑みもて雅華さんは、山猿のグラスを気遣ってくれている。
「先生、ずっとロックですのん?」
「はあ、あの、超一流高級割烹の、あし田さん、では生ビールやら冷酒やらをいただきましたけどね」
「ほんと、お強いんですねぇ、ぜんぜん、お顔にも出てはらへんし」
「いやぁ、あこがれの北新地で緊張しまくってるせいですわぁ」
 云いつつ、千春ママさんに頂戴した龍馬扇を、パアッと広げて、ハタハタと使ってみせたり、作務衣の襟元をなおしてみたり、かつ、いかにも慣れた感じでグラスを振っては、氷の音を楽しむような仕草までしてみせたなら、くゆらせるタバコは、いつもなら、あとはフィルターが焦げてしまいまっせぇ、というくらいのキリギリいっぱいまで吸い尽くすクセに、半分くらいでもみ消して惜しげもないのである。

 ちなみに、たとえば故郷でも、そんな時がある。
が、故郷では、つとめてシケモクってやつを忘れないもので、ただし、ここは北新地・・、もみ消したタバコは、たった一本で灰皿ごとサヨナラしなければならないのだった。

ninki-blog-ranking-imgにほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へビジネスブログランキング
↑ブログランキングに参加しています。3つともクリックしていただけると元気100倍です揺れるハート

posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 12:10 | Comment(1) | 実録 華も実もある北新地物語