2010年06月14日

今回は、いわゆる18禁といたします。また一般道徳上に鑑みて不適切な言葉や表現がありますが、当時の雰囲気を忠実に再現せんがため、あえて修正しないまま表記しました。合掌

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北新地物語

 惚れた数からふられた数を 引けば女房が残るだけ

どうやら会長、別嬪さんの横で酔うてゴキゲンさんになると、都々逸を口ずさむのがクセらしい。
 あははぁ、と聞き流しながら、クラブ吉川の千春ママさんにいただいた龍馬扇にて、すっかり高杉晋作に成りきってしまっている山猿も、つい調子を合わせたりした。
「僕は、都々逸やったら、三千世界、が大好きなんですよね」
「わあ、先生も都々逸なんか知ってはるんですかぁ」
「まあ、会長さんほどじゃないですけどね」

(なんせ、三千世界は、ワシがこさえた唄じゃけぇのう。あんときゃあ、おうの、の膝枕で気持ちよう唄うたもんじゃった。三千世界のカラスを殺し〜、ぬしと朝寝がしてみたい〜、ってかあ・・。)

「いや、先生、聞いとくなはれ。これだけは、はっきり云うときますわ。そら、確かに僕が気に入ってる子ぉと同伴する時にはねぇ、いっつもやったら、遅うても当日の昼過ぎには逢うて、まずは」

 横に寝かせて枕をさせて 指で楽しむ琴の糸

 膝にあそばせ胸にも抱いて そっと鳴かせる三味の糸

「ちゅうもんですわ。ほんで、まあ軽く食事したりもしますわなあ。そやけどね、先生、この旭菜優ママだけっ、この優ママだけはっ、今までっ、いっぺんもっ、オメコの毛ぇの一本たりとっ、ただの一本もでっせっ、触らしてくれたことおまへんねんっ、どないだっ、えっ、先生っ、どない思わはりますかっ」
「ええっ?!いやっ、そのっ、どないもこないも・・」
「先生、ワシャア、この世へ向いて親分になるために生まれてきたようなもんですよ。じゃけんど、先生、ワシャ、会長じゃあ、会長じゃあ云うてもよ、なかなか自由になりゃせんのですよ。のう、優ママ、お父ちゃんは、お前の好きな金の玉を、ふたぁつも持っとるんじゃけん。ちゅうて、先生、ワシャ、これのこと想うてよ、ええ具合に塩梅しとっちゃるんじゃけん、云うてナンボ口説いても、こんなぁ、オメコの毛ぇも触らしゃあせんのですよ」
「いやっ、そのっ、まあ、毛をさわるくらいやったら・・、ねえ」
「教育者の先生が、そったらことぉ云うたら、いけんでしょうが」

「・・会長さん、どないしはったんですか?すっかり酔うてはりますのん?」
 旭菜ママさんが苦笑しながら云い、亜弥さんたちは呆気にとられた真顔で、しかも、山猿を見据える会長から目をそらしている。
「いや、あの、いま会長さんが云わはったんは、『仁義なき戦い』のなかの名ゼリフばっかりですよ・・、ねえ、会長さん」
「ほいじゃ云うといたるがのぉ、広島極道はイモかも知れんが、旅の風下に立ったことは、いっぺんもないんでぇ」
 ギリッ!と眼を据えて云うなり、さも不機嫌そうにグラスをとったあたりは、なるほど、かの小林旭に成りきってきるらしい。
 ただし、最初のセリフは金子信夫さん演ずる山守組長のそれであり、教育者うんぬん、は菅原文太さん演ずる広能組長のそれである。ただし、会長はノリノリでふざけているつもりであろうが、山猿はじめ周囲は、あまりの恐ろしさにビビっているだけであった。
「あっ、会長さん、先生、ちょっと失礼しますぅ」

ほらね、旭菜優ママさんが忙しそうに席を離れていっちゃったぁ。

 いや、もちろん、お店が忙しいからであり、決して会長さんに恐れをなしたワケではないことだけは、ここに明記しておこう。
「どうですか、先生、ありゃあ、ワシにオメ」
「分かりました、分かりましたけん、会長さん、ほら、もう、機嫌なおして飲んでつかぁさいや、こんとおりですけん」
「広島の喧嘩いうたら獲るか獲られるかでぇ、いっぺん後手にまわったら、死ぬまで先手にゃあまわれんのじゃけえ」
 あらためて断っておくが、この会長は、某大手会社のトップであって、決して、あちらの業界の方ではない。
 ただし、そうとう小林旭に憬れているらしく、しかも、一度やり始めたなら、とにかく自分の気がおさまるまでは周囲なんぞ関係なくなる、という習性を、これは、かなり強めに保っているようで、ことに豪華セットが出来上がっているところでは気合いもはいりやすいのであろう、その演技も迫真そのものなのだった。

「もう、会長さん、おふざけが過ぎますよ。亜弥ちゃんも雪ちゃんんも、ホンマに怖がってますやん」
 ようやく麗羅ママさんが戻ってくれて、なんとか落ち着いたものの、いまだ会長の眼は、その眼鏡の奥で据わりっぱなしなのである。

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posted by 歴史小説家 菅靖匡 at 12:29 | Comment(0) | 実録 華も実もある北新地物語
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